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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】絢爛たる都(16)
再び胸倉をつかんだ手は、しかし小刻みに震えている。
翡翠の双眸は大きく見開かれ、睫毛がふるふると揺れていた。
わななく唇は、言葉を紡ぐこともできやしない。
「アル、あんたの命が危ないと感じたら助けに入るつもりだった。たとえ、兄に逆らっても。この命を投げ打ってでも。本当だ!」
震える指先を、ごつごつした武人の手が包み込む。
とっさに振り払おうとして、しかしアルフォンスにはできなかった。
「守るというなら……ディオ、何をおいても俺を助けに来い。あんなことをされたのに、俺は……俺は……」
もう片方の手を肩に回そうとして、しかしディオールはそのままブラリと下ろしてしまった。
「身体を触られたんだ。男なら普通に気持ち良くなる。私だってきっとそうだ」
そこに心なんかない。
なぁ、そうだろう、アル──諭すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「忘れろ、アル。私があんたを守るから」
聞き慣れた低い声に、アルフォンスは目を閉じた。
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