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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】約束はきっと儚い(1)

 やはりまずは軍人としての視点で見てしまう。  己の置かれた状況も、そしてこの窓の外の景色も。  窓ごしに射しこむ明るい陽光を浴びながら、アルフォンスは厳めしい表情で腕を組んでいた。  何ということはない。  無理にでも思考を外へ向けないと馬車での甘い囁きを思い出してしまうからだ。  身体の奥を裂かれた傷はもう癒えた……多分。  だが心に刻まれた快楽は、ともすれば不意に鎌首をもたげアルフォンスを苦しめるのだ。  あの男の手を思い出して、無意識に自分で弄ってしまいそうになる。  男ばかりの戦場で、兵たちがよく軽口を叩いていたっけ。  女が恋しい、あたたかい肌が恋しいと。  なんて下品な奴らだろうと、そのときは思っていたが……成程。こういう感情だったのか。 「アルフォンスさん、また勝手に外へ出ましたね?」  背後からの嘆きも、この際聞こえないふりをしておく。 「わたしはこのお部屋の中でアルフォンスさんのお世話をするよう言われてるんですからね。外へ出てはいけません」  僧か学者のようなガウンをまとった中年の男が白髪混じりの頭をかきむしった。  フリードと名乗ったこの男、当然のような顔をして朝から夜までアルフォンスの部屋に居座っている。  王直々に客人の世話係に任命したということだが、もちろんこれは体のよい見張りに他ならない。  しかしこのフリード、見たとこかなりのポンコツのようだった。

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