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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】約束はきっと儚い(3)
白髪頭をかかえて、大仰にフリードは嘆きの表情を作ってみせる。
「アルフォンス殿下はたしか軍でご活躍されてましたよね。馬に揺られてあちこち遠征してたんでしょう? 馬も船も同じだと思うんですけど?」
「ぜ、全然違う!」
声を荒げると、フリードは俯いてしまった。
肩が小刻みに震えている。
笑っているのかと気付き、アルフォンスは必死に平静を取り繕った。
窓に視点を転じる。
よく磨かれた硝子越しに、街の様子が一望できた。
そう、この街の攻略だ。
そっちに思考を集中するんだと無理矢理目を凝らす。
まず圧倒されるのが街を囲む市壁の存在だ。
五万の民が住むグロムアス首都をぐるりと取り囲む高さ四メートル、幅二メートルの市壁。
馬車に揺られながら市壁の門をくぐったときは、壁ではなく建物の中に入ったのだと錯覚したものだ。
茶色と灰色、黒と白が混ざった煉瓦を丹念に積んで造られている。
さまざまな物質を混ぜた石材が使われているだけあって、耐久性も窺い知ることができた。
火矢程度ではびくともしないと見てとれる。
大量の火薬を使った攻撃にも十分耐えうる造りとなっているのだろう。
軍人目線で考えるなら、あの市壁があるかぎりグロムアス首都はまさに鉄壁の要塞であった。
「プフッ。《レティシアの黄金の剣》がまさかの船酔い……プフフッ」
「………………」
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