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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】約束はきっと儚い(4)
拳を握りしめる。
いや、気にするな。
おしゃべりな中年なんて放っておけ。
市壁には一分の隙もない。
だが、弱点のない要塞というものは存在しない。
目を凝らせば街を縦横に走る無数の水路。
鍵はそこに隠されている。
小舟が無数に行き交う水路の一部は市壁の外へも続いていた。
その部分だけはトンネルのように市壁をくり抜く形で穴が開けられているのだ。
「狙うならあの隙間だな」
ロイに言われなければ気付かなかっただろう。
この城塞都市の唯一の弱点が、外から流れこむ水路なのだ。
「船酔いのアルフォンスさん、何か仰いました?」
フリードの怪訝そうな声に「黙っていろ」と返すと、世話係兼見張りは大袈裟によろめいて泣き始めた。
「こんなに邪険にされるなんて! わたしは会話のキャッチボールを楽しみたいだけなのに」
「なんで俺がお前と和気あいあいと会話を楽しむと思ったんだ。俺は無理矢理ここに連れてこられたんだぞ」
「そ、そこは本当にうちの坊ちゃんが申し訳ない」
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