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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】約束はきっと儚い(11)
叩かれた傷口がさすがに痛むか、顔をしかめるカイン。
「軍人は向いてませんでした」
「……だろうな」
天幕の中のバスタブを思い出して、アルフォンスは肩を竦める。
「かといって、王に向いているわけでもない。暗殺の危険に晒され、この様ですよ。軍の支持があるから、表面上は誰も逆らえないだけです」
自嘲気味な調子に、アルフォンスはとどめとばかりに包帯を叩いた。
「向いてもない王位を何故欲した? それとも先王に恨みでもあったのか?」
まさかと首をふるカイン。
「大きな声では言えませんが、今でも尊敬していますよ。身寄りのない僕を拾って育ててくれた。先王を父とも思っていました」
「じゃあ何で?」
──まさか本当にこの俺と並びたいがために?
ふと浮かんだ考えをアルフォンスは慌てて打ち消した。
そんなこと、さすがにあり得ない。
都合の良い考えだ。
《簒奪王》とは無論、陰口である。
本来、王位に相応しくない者が武力を用いて地位を強奪したという意味を持つ。
「軍の支持があるとはいっても、真に信頼できる者が何人いるか……」
簒奪王を、心の底から認めている者は少ないだろう。
一瞬でも隙をみせれば喰われる世界に、この男はいるのだ。
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