90 / 180
【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】約束はきっと儚い(12)
椅子に腰かけるカインの眼前に立って、アルフォンスは彼を見下ろした。
「疲れてるんだな。優しくしてほしいか?」
「アルフォンス殿下?」
「なんて、この俺が言うとでも思ったか。弱みを見せるんじゃない。全部泣き言だ。己のしたことの報いを受けて、せいぜい苦悩しろ」
歯切れよく切って捨てたアルフォンスに、カインの肩が震えた。
かすかに漏れる笑い声。
「ああ、いっそ罵倒が心地良いです。一生刻み付けておきますよ、あなたの言葉」
ひとしきり笑いながらカインは包帯を右手で擦る。
「この包帯も一生外しません」
「何言ってるんだ」
いつのまにかフリードの姿は消えていた。
消毒液で染みができた床を拭うため薬剤を取りに行ったか。
あるいは妙な気でも利かせたか。
──ふたりきりだ。
ともだちにシェアしよう!