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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】約束はきっと儚い(15)
息も絶え絶えな言葉を、カインはささやかな抵抗だと捉えたようだ。
「理由がいりますか。美しくて凛々しくて、あなたの存在がただ尊いのです」
いや、違うな──カインが小さく呟く。
「ただ愛おしい。多分、もう理由なんてないんだ」
「そんなの、意味が分からない……」
そうですよね──ふっと笑みをこぼしたカインにつられるように、アルフォンスの口元も緩む。
彼の頬に唇を寄せてから、カインは囁いた。
「僕の名を呼んで、アルフォンス」
繰り返すくちづけで水分を奪われ乾燥した唇がゆっくりと「カ」の形を作ってから、ギュッと閉じられた。
「だめ。言わない……っ」
名を呼んで抱きあうなんて、そんなのまるで愛の営みじゃないか。
──俺はこいつを絶対に許さないって誓って……だから……。
「カイン」という囁きが聞こえるのを待っているのだろう。
無言の時間が、しばし流れる。
やがて諦めたカインは、己の下で微かに震える身体を抱きしめた。
「ならばこのまま……あなたを抱きしめて眠っていいですか」
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