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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】約束はきっと儚い(16)
「このまま?」
「ええ」
圧し掛かる重さから不意に解放され、アルフォンスは戸惑ったように隣りの男の顔を見やる。
受け止めるようにカインは微笑を浮かべた。
それがどこか寂し気な笑みに感じて、アルフォンスは狼狽える。
黒衣の腕が黄金の髪を抱き、もう片方の手が細い腰に回された。
睫毛が触れるほど近くで向かい合って横たわると、激しく波打つ心臓の鼓動はもはや誰のものだか分からなくなる。
「……こんなの、変だ」
どうしてですかというカインの声が耳朶をくすぐる。
「だって、何もしないで……こんなにくっついて」
──だってこんなの、恋人みたいだ。
最後の言葉を、アルフォンスは呑みこんだ。
怖かったのだ。
言葉にしたら、得体の知れない想いに気付いてしまいそうで。
ずっと注がれる視線に瞬きすらできない。
赤く染まる頬を隠すため、アルフォンスはカインの胸に顔をうずめた。
規則正しい動きで髪を撫でる手に、徐々に瞼が重くなる。
眠りに落ちる寸前のこと。
カインがアルフォンスの名を呼んだ。
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