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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】約束はきっと儚い(17)

「……行きましょう」 「行く? どこへ? いっしょに?」  夢うつつ。  うっすらと開いた瞼にカインの唇がそっと触れる。  頬を伝い耳たぶをなぞりながら、黒衣は黄金を抱きしめた。 「街外れの丘に前世紀の要塞が建っているんです。朽ちかけた建物で、誰も見向きもしない」 「うん……?」  そんなところへ行ってどうすると?  疑問が声に表れていたのだろう。  カインが笑みを零す。 「要塞の周囲に金色の花が咲いているんです。一面黄金の海で、それはそれは美しくて」 「小麦畑か? なら黄金と呼んでも差し支えないが」  耳たぶを噛む唇が震える。  どうやらカインは笑いを噛み殺しているようだ。 「何がおかしい?」  耳がくすぐったいと振った手を、そっとつかまれた。  絡めた指は熱く、優しい。 「違いますよ。花ですって言ってるでしょう」  珍しく語尾が跳ね上がっているのは、むきになっているのだろうか。  アルフォンスは黒衣の胸に顔を押し付けた。  緩む頬を見られるのが恥ずかしいから。 「金の花なんて。そんなものあるわけないだろ。小麦なら分かるが……夢でもみたのか」 「案外、即物的でいらっしゃる。アルフォンス殿下は」  大の男の拗ねたような物言いが、何故可愛く感じるのだろう。  まぁいいですよと気を取り直したか、カインの手は再びアルフォンスの髪を撫で始める。 「ずっとあなたに見せたいと思っていたところです。今度お連れしますよ」  約束です──そう囁かれ、アルフォンスは頷いていた。      ※  ※  ※

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