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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(2)

 だからである。  巨きな身体を縮めるようにして王宮の裏庭にまでやってきたのは。  ここは人工池が造られており、細い水路を伝って城下街と結ばれている。  午前中は運輸の船で賑わっているが昼を過ぎれば閑散とし、今は小舟が静かに揺れているだけだ。  一人になりたいディオールの恰好の隠れ場所となっていたのだ。  池からさらに奥まった庭に続く細い小道は元は王の散歩道だったという。  佇む小庵の瀟洒な骨組みが、今や蔦に覆われていた。  手持無沙汰なディオールにとって、ここはもはや慣れた道である。  小さな白い花を踏まないように俯きながら小道に足を向ける。  寒冷地のレティシアでは見る機会のない可憐な花に心和んだときだ。  初めに、白い足が見えた。  金色のサンダルから覗く爪の輝きに目を奪われ視線が動く。  水路に沿って吹く風を受けて、白い衣服がはためいていた。  太陽を見上げるようにディオールが目を細める。  ふわりと揺れる黄金色の髪が眩しくて。  アル──と、声をかけることができなかったのは数日ぶりに会う弟分の美貌に戸惑ったからではない。

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