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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(3)

 一点を凝視する翡翠色の双眸。  手元の紙に何か書きつけているようだ。  ディオールは口元をほころばせる。  昔からそうだ。  王弟であり軍指揮官という立場のアルフォンスだが、何かに集中すると途端周囲が見えなくなる。  軍人としてそれは弱点に違いないが、ディオールはそんな弟分を見るのが好きだった。  アルが余所を向いているなら、自分が彼を守ってやらなくてはならないと。  視線に気付いたか。  ふと、金色の睫毛が震える。 「ディオ?」  果実のように潤む唇が己の愛称を紡ぐ様を、ディオールは呆けて見つめていた。 「ア、アル……」  駄目だ、何か言わなくては。  翡翠が訝し気に細められたではないか。  だからといって兄のように「きれいだ」などと歯の浮く台詞は口にできない。  ディオールは自分が相当不器用だと自覚していた。  だから選びに選び抜いた言葉はひどく凡庸なものとなる。 「その……大丈夫か?」  失敗したと悟ったのは、美貌に「不機嫌」の表情が張りついたから。

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