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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(4)
「どういう意味だ、ディオール」
ディオールの肩が、途端に縮められる。
「そ、その……」
「オレの尻の話か? それとも俺が捨てられたって話か?」
「そんなこと、私は……」
狼狽えながらも、ディオールは目の前の金髪の青年に見とれていた。
怒りと屈辱に滾る双眸は美しいとしかいえない。
「あいつは俺を無理矢理抱いて、こんな所にまで連れてきた。俺のすべてを奪ったくせに自分は……」
語尾は震え、途切れてしまった。
強引に身体を奪った男に、心まで囚われてしまったか。小刻みに揺れる肩を抱き寄せるべきだろうか──しかし伸ばされた手は無意味に空中をさまよう。
「アル、泣くな。あんたが泣くと、私はどうしていいか分からなくなる」
「泣いてなんか……っ」
肩に触れた手を、強情な弟分は振り払った。
とっさにその手首をつかむディオール。
ぐいと身を寄せられ、アルフォンスの身体が強張る。
「ディオ? よせ……」
根が気弱で忠実な元部下を、彼はこの期に及んで甘く見ていたに違いない。
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