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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(6)

「お前は俺の命令だけ聞いていろ」  再びの掌底。  思わず目を閉じたディオールだが、胸に打ちこまれた手に力は込められていない。  カサリと紙の鳴る音に恐る恐る目を開けたと同時に、アルフォンスが立ち上がる。  腕を組んで背を向けてしまった。 「レティシアへ戻れ、ディオール」 「えっ?」  立ち上がって紙切れを広げ、そしてディオールは息を呑む。  植物を原料とした質の悪い紙には、細い線でびっしりと地図が記されていたのだ。 「これは、まさか……」 「ああ、そのまさかだ。王宮と街の水路の地図だよ」  何度も部屋を抜け出して、船酔いしながら調べあげた水路である。 「ここからレティシアは大軍を率いてでも一週間足らずの距離だ。単騎で馬を飛ばせば一日で着くだろう。レティシアに戻って、姉上にこれを渡せ」  本当に俺を守る気があるならな──そう言い捨てるアルフォンス。  命令することに慣れた容赦ない傲慢さが己に向けられていることに、ディオールは打ち震えた。

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