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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(8)
訝しむ声に、アルフォンスは「別に構わん」と造作なく答える。
「外だが、ここでいいか? 女じゃあるまいしこだわりもない。そもそもあんな行為に情緒も何もないだろ」
ディオールはようやく思い至った。
元主人は自分に身体を差し出そうとしているのだ。
「よ、よせ、アル。あんたのそんな姿は見たくない」
つかんだ腕が微かに震えていることにディオールは気付く。
「お前はどっちの味方なんだ。お前がそんなだから……だから俺はこの期に及んでお前を頼ってしまうんだ」
アルフォンスが俯いてしまったため顔は見えない。
だが、絞り出すか細い声にディオールは痛々しいものを感じた。
「こんな身体じゃ、国に帰っても姉上の顔をまともに見られそうにないな。俺だって元の俺に戻りたいよ」
「アル……」
白い花が足元でサラサラと音階を奏でる。
紡ぐべき言葉を探し、それからディオールは押し黙った。
だが二人の間に横たわる沈黙は、軽やかな笑い声に破られることとなる。
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