104 / 180

【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(8)

 訝しむ声に、アルフォンスは「別に構わん」と造作なく答える。 「外だが、ここでいいか? 女じゃあるまいしこだわりもない。そもそもあんな行為に情緒も何もないだろ」  ディオールはようやく思い至った。  元主人は自分に身体を差し出そうとしているのだ。 「よ、よせ、アル。あんたのそんな姿は見たくない」  つかんだ腕が微かに震えていることにディオールは気付く。 「お前はどっちの味方なんだ。お前がそんなだから……だから俺はこの期に及んでお前を頼ってしまうんだ」  アルフォンスが俯いてしまったため顔は見えない。  だが、絞り出すか細い声にディオールは痛々しいものを感じた。 「こんな身体じゃ、国に帰っても姉上の顔をまともに見られそうにないな。俺だって元の俺に戻りたいよ」 「アル……」  白い花が足元でサラサラと音階を奏でる。  紡ぐべき言葉を探し、それからディオールは押し黙った。  だが二人の間に横たわる沈黙は、軽やかな笑い声に破られることとなる。

ともだちにシェアしよう!