112 / 180

【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(16)

「な、なんで人がオリのなかに……?」  薄暗さが幸いしてか、誰もそこに小さな王子が紛れていることに気付かない。  足元から力が抜け、アルフォンスはそばにあった檻をつかんでしまう。  あっと声をあげたのは、檻の入口が簡単に開いたからだ。  驚き。  あとは好奇心。  カシャンと小さな音を立てて、アルフォンスは小さな檻の中に身を滑り込ませる。  中に人がいると──しかも自分とそう変わらない年齢の少年がいると気付いたのだ。 「なにしてるの?」  無邪気とも無神経ともいえぬ質問を投げかけられ、檻の中の少年は闖入者をチラと見やった。  暗く沈んだ眼に表情はない。  構わずアルフォンスは手を伸ばした。  無遠慮に少年の腕をつかむ。 「俺がここからだしてあげるよ」  オリに入れられた子を助けてあげたら、きっと姉うえが褒めてくれる。  だってセイギのみかたみたいだもん──幼い心が描くのは甘くて無謀な感傷だけ。

ともだちにシェアしよう!