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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(16)
「な、なんで人がオリのなかに……?」
薄暗さが幸いしてか、誰もそこに小さな王子が紛れていることに気付かない。
足元から力が抜け、アルフォンスはそばにあった檻をつかんでしまう。
あっと声をあげたのは、檻の入口が簡単に開いたからだ。
驚き。
あとは好奇心。
カシャンと小さな音を立てて、アルフォンスは小さな檻の中に身を滑り込ませる。
中に人がいると──しかも自分とそう変わらない年齢の少年がいると気付いたのだ。
「なにしてるの?」
無邪気とも無神経ともいえぬ質問を投げかけられ、檻の中の少年は闖入者をチラと見やった。
暗く沈んだ眼に表情はない。
構わずアルフォンスは手を伸ばした。
無遠慮に少年の腕をつかむ。
「俺がここからだしてあげるよ」
オリに入れられた子を助けてあげたら、きっと姉うえが褒めてくれる。
だってセイギのみかたみたいだもん──幼い心が描くのは甘くて無謀な感傷だけ。
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