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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(17)

「放せ」  手を振り払われるのもお構いなし。  ぐいぐい引っ張ると、少年の上体が傾いだ。 「あっ」  どれほどの期間、囚われの身となっていたのだろうか。  少年の体に体力は残っていなかったのだ。  アルフォンスに圧し掛かるように倒れ込む。押し潰さないように、咄嗟に両手をついて支えたのは彼の良心であったろう。  間近に迫った少年のかさついた頬を、白い手が包んだ。  ギョッとして小さな暴君を見下ろした少年の眼が震える。 「こくよう石みたいなキレイな眼だね」  暗い色をした眼に、このとき走った感情は何だったのだろうか。 「俺はアルフォンス。お前の名は?」 「──カイ……」  よく聞こえないよ、もういちど言って──アルフォンスが囁いたときのこと。  檻が乱暴に揺さぶられた。

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