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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(18)

「扉が開いてるぞ。こいつら兄弟で脱走しようとしやがったな」  入口からのびる無数の手。  大きく節くれだっていて、爪の間に血の固まりが詰まっている。  よくみれば袖口は乾いた血色に染まっていた。  襟首をつかまれ引きずり出され、アルフォンスは恐怖に駆られた。  血色の袖が振り上げたのは鉄の棒だ。  路地裏を照らす微かな洋灯の光を、棒は歪な角度で反射している。  まるで棘だ。  それは棒の形状が丸でないことを表していた。  切り出されたまま(やすり)がけすら施されていない四角いもので、角に触れれば切れてしまいそうに鋭い。 「や、やめて……」  体は動かず、悲鳴は信じられないほどか細い囁き声に変じてしまう。  害獣でも追い払うように振り上げられた棒を、幼いアルフォンスはただ見つめるだけ。  打ち下ろされる──瞬間。  目を閉じたアルフォンスの身体が後ろから突き飛ばされた。  棒が空を薙ぐ重い音。  肉を断つ嫌な響き。  唸り声。  同時に飛んできた石礫に頬を打たれ、アルフォンスは硬直した。  痛い……いや、痛くはない?  分からない。  恐る恐る触れた手には鮮血がペトリ。  貼りついている。  それは自分の血ではなかった。

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