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【第三章 憎しみと剣戟と】欲望を呑みこんで(2)

 こうなると著しく微妙な立場に追いやられるのが自分だ──努めて冷静に己の立ち位置を振り返るのはアルフォンスである。  努めて冷静に──おそらくはそんなふりをしているのだろう。  内心の動揺を誰にも悟らせないためには仮面が必要なのだ。  いや「冷静」という仮面をつけ欺きたいのは、むしろ己の心かもしれない。 「アルフォンス殿、坊ちゃんの様子を見てきてくれませんか?」  早口で間合いを詰めてきたのは、王宮でのアルフォンスの世話係兼見張りフリードである。  「ああ、心配だ、心配だ」と、さきほどから室内をグルグル回りガウンの袖を握りしめていた。 「なんで俺が? お前が行ったらいいだろう」 「そ、そんな言い方します?」  過剰にきつい口調になってしまった。  ディオールよろしく「すまない」と呟いてから、アルフォンスは自室の窓から王宮の庭を見下ろす。  ここからは王暗殺未遂の人工池を見ることはできない。  カインが刺され、彼の身体に刻まれた傷を見た瞬間。  蘇った忌まわしき記憶。  救命に必死なディオールやリリアナを横目に、そこから逃げ出したのは自分だ。  様子を見に行けだと?  どの面下げてそんなことができようか。

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