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【第三章 憎しみと剣戟と】欲望を呑みこんで(3)
第一、凶行のあの瞬間。
カインはアルフォンスを庇う形で刺されたではないか。
たしかに刺客の剣はカイン王を狙ったものだった。
だが、あの場に自分がいなければ彼は刃から逃れていたに違いない。
二重の意味で「どの面下げて」である。
療養するカインの元になど行けやしない。
それでも、だ。
アルフォンスはカインの寝室を覗きに行ったのである。
今から数時間前。
文字どおり、こっそりと。
そんなところで何をしていらっしゃるのです。
こちらへ来て顔をみせて、アルフォンス──なんて甘い言葉を期待していたわけではない。
断じて。
しかしそろりと覗いた扉の隙間を、それ以上開けることはできなかった。
その向こうに広がっていた世界は、アルフォンスに孤独を突きつける。
王の寝台で眠るカイン。
その傍らに心配そうに寄り添っているのはリリアナである。
彼女の侍女たちであろう。
周囲では忙しく立ち働く女性たちの姿も。そんな空間に分け入ることなどできようか。
「気になるならお前が様子を見に行け、フリード」
心外だというようにフリードは大袈裟に目を見張る。
「貴方、本当に薄情な人ですね。いいです、わたしが行きますから!」
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