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【第三章 憎しみと剣戟と】欲望を呑みこんで(5)

「どういうことだ。俺に何か用か」  ロイの目配せで配下の将らの動きが止まる。  ロイはさして広くもない部屋の中に視線を投げた。 「王はどこにいる?」 「婚約者殿……リリアナ嬢といったか、お前の妹君が看病されていたはずだが?」  妹の名を出したのは挑発である。  果たしてロイは苦々しげに顔をしかめた。 「婚約など聞いてねぇぞ。大方リリアナがのぼせあがって王に付きまとっているだけだろ」 「さぁな」  違和感には気付いていた。  王はどこだという切羽詰まった響きはもちろん、ロイが口にした「王」という呼称。  臣の立場で、しかも大勢の部下の前では陛下と呼ぶのが筋だ。 「王の部屋にはいない。妹が目を離した隙に消えたらしい。ならば貴様の部屋に違いないと思ったのだが、どうやら違うようだな」  不本意だが──そう言いおいてロイは剣を抜いた。  重い刃をアルフォンスへと向ける。

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