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【第三章 憎しみと剣戟と】欲望を呑みこんで(7)
「だから《血の祝祭》までに国へ帰れって言ったんだ……」
配下の兵らが色めきたったところでアルフォンスはロイの手を放す。
手出しは不要とばかりにロイも背後に視線を送った。
「カインに刺客を送ったのはお前だな」
何度刺客を送ってものらりくらりと躱されたと、もはや否定する素振りすらない。
ロイはまっすぐ顔をあげた。
「《簒奪王》から王位を取り戻す。どう考えても、それがこの国にとって正しい選択だ」
「それでお前が新たな王にでもなるのか? 《簒奪王》とどう違う?」
違うとロイは叫ぶ。
あまりの侮辱に幼い顔立ちは真っ赤に染まっていた。
「先王には子がいない。だから、しかるべき血筋の正しい後継者を探す。この国には必要なんだ。先王から続く侵略路線を改める新たな王が……!」
貴様なら分かるだろう──そう詰め寄られ、アルフォンスは言葉に詰まる。
これはクーデターだ。
だが行為の正当性はともかく、ロイが義憤に溢れているのは確かである。
レティシアの王弟として思案するならばこうだ。
この企てが成功し仮にカイン王が落命したなら当面の間、交渉相手は目の前のこの男ということになる。
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