124 / 180
【第三章 憎しみと剣戟と】欲望を呑みこんで(8)
ならば今、不用意に敵対するべきではない。
だが──。
アルフォンスはロイの剣を拾い上げる。
「薄汚れた暗殺者の剣だ」
触れたくもないという風を装って、彼の足元に放り捨てる。
決別の印に、ロイが唇を噛んだそのとき。
配下がざわついた。
向こうから兵士が一人駆けてきたのだ。
「閣下、正体不明の武装勢力が水路を伝って街に侵入しました」
「どういうことだ。王の勢力か? 軍は完全にこっちで掌握しているはずなのに」
分かりませんと首を振る兵士。
「クソッ、情報を集めろ」
こうしてはいられないと、ロイは足元の剣を拾う。
アルフォンスにちらりと未練がましい視線を送った後、身を翻した。
配下を引き連れ、走り去っていく。
「正体不明の武装勢力だと。まさか……」
アルフォンスの脳裏に芽生えたのは微かな希望か。
それとも大いなる絶望であったろうか。
※ ※ ※
ともだちにシェアしよう!