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【第三章 憎しみと剣戟と】欲望を呑みこんで(9)
※ ※ ※
カインと声を張り上げたい思いを、アルフォンスは懸命に抑えた。
将軍ロイの裏切りが確定した以上、王宮の中におそらくカインの味方はいない。
軍の支持のみを頼みとしていた《簒奪王》がそれを失ったら、なれの果ては失脚しかない。
みじめな虜囚生活を送るか、あるいは死という選択肢もあろうか。
いずれにしてもカインにとって未来への希望は失われて久しい。
彼が負傷をおして自室から姿を消したのはそういった理由があるのだ。
ロイは疑って探しに来たが、彼がアルフォンスの部屋にいる由もない。
「王宮から出たのか?」
ならば一体どこへ?
安全な隠れ場所に心当たりでもあるのだろうか。
水路を使って数回街へ出ただけのアルフォンスには、カインの行く先など見当もつかない。
それとももう街から出たのだろうか。
そうだ、力を失った王が他国へ亡命するという可能性もあるではないか。
──どちらにしろ、もうここにはいないのだろう。
行くあてを失ったアルフォンスの足が止まったのは、カイン襲撃現場の用水池である。
血痕はきれいに拭われ、あの騒動を思い起こさせるものはなかった。
水も穏やかで、王宮を包む不穏な影など写しはしない。
瞼の裏に蘇るのは血に濡れて倒れ伏した王の姿である。
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