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【第三章 憎しみと剣戟と】欲望を呑みこんで(10)
あの状況で別れを告げる暇などあるはずもなかろうが、最後に触れた彼の身体が血まみれであったのは大いなる皮肉であろう。
しょせん血塗られた関係だ。
王は初めから情など持ちあわせてはいなかったのだと思い知らされるではないか。
足取りは重い。
行くあてのないアルフォンスは王宮の裏庭のさらに奥へと迷いこむ。
なるべく狭いところ、なるべく人のいないところを求めるのは防衛本能にすぎない。
足元に咲く白い小さな花に気付く余裕すらない。
左右に木々が迫る小道は、以前は散歩道として使われていたものなのだろう。
突き当りには瀟洒な小庵が見える。
置かれた椅子は蔦に覆われていた。
薄暗いというほどではないが、王宮とは思えない荒れ具合だ。
ふっと息をついてアルフォンスはベンチに腰を下ろした。
王宮のざわめきもここまでは届かない。
気持ちを落ち着かせるためには、ちょうどよい環境かもしれなかった。
もう一度、大きく息を吐きだしたときのこと。
アルフォンスは背後に気配を感じた。
振り返ろうとした肩をつかまれる。
布越しに伝わる熱い手のひらに、身体の奥が蕩けた。
「……カインか?」
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