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【第三章 憎しみと剣戟と】欲望を呑みこんで(14)

 近くにあるはずのカインの顔を見られず、アルフォンスはギュッと瞼を閉じた。  黒曜石の眼はきっと冷たく自分を見下ろしているに違いない。  なのに想いゆえか、痛みの中に快楽の波が寄せ始める。  アルフォンスは黒衣の首筋に両腕を絡めた。  肩に顔を埋める。 「カイン、せめて……俺の名を呼べ……」  懇願に応えるように、カインの唇が微かに開いた。  ヒュッと漏れる空気音に、アルフォンスの双眸が開かれる。  その唇で名を呼んでくれるのだろうか。  それとも熱いくちづけをくれるのか。 「──…………」  しかし願いは空しい。  黒曜石の眼はアルフォンスを見ずに小径の向こうを指した。  熱い唇も、アルフォンスとは別の名を形作る。 「そんなところで見てないで一緒に楽しまないか。ディオールよ」  ガサリと草木が動く。  おずおずといった様子で木立の影から出てきた巨きな姿に、アルフォンスは短い叫びをあげた。

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