133 / 180

【第三章 憎しみと剣戟と】花の向こうで眠れ(2)

 しかしこの場合、弟とはいえ決して味方とはいえない。 「兄上、アルの気持ちを知っているのだろう。なのに、何故あのようなことを……!」  そういえばこいつはアルフォンスの忠犬だったっけ。  とうに飼い主に捨てられたというのに、懸命に忠義の尻尾を振っているのか。 「……これでいいんだ」  出来の悪い弟にというより、己に言い聞かせるようにカインは呟いた。 「あのひとがほんの少し……僕に想いを寄せてくれているのは分かってた。でも……だからこそ、これでいい。僕への情なんて残さなくていい」 「それはどういう意味だ」  怒りと困惑を隠せず呆然と立ち尽くす弟。  今この瞬間にも、アルフォンスを追って駆けていきたいのだろう。  ──そうすればいいのに。  敵地の真ん中で王の庇護のない彼を守れるのは、この男しかいないというのに。

ともだちにシェアしよう!