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【第三章 憎しみと剣戟と】花の向こうで眠れ(3)
僕は多分死ぬ──内容にそぐわぬ静かな声でカインは呟いた。
「クーデターが起こっている。僕は裁判にかけられ処刑されるか、あるいは捕らわれてその場で斬殺されるかどちらかだ。あのひとを巻き込むわけにはいかないだろう」
カイン──とアルフォンスが名を呼んでくれたのは嬉しかった。
この先ずっと一緒にいられたらいいのに。
でもそれは無理なこと。
最後くらい、できれば優しく抱きたかったが……仕方ない。もしも口を開けば愛おしい、愛していると言ってしまう。
絶対に言葉にしてしまう。
そうするときっと、彼をこの手から放すことができなくなってしまうだろう。
「そんなの……兄上は勝手な人だ」
拳を震わせるディオール。
そこに芽生える殺意を、不器用なこの男はどうにも処理できずにいるのだろう。
カインは己の胸を指で指した。
「いっそお前に殺されるのでもかまわない。ここにナイフを刺せ」
そのかわりアルフォンスのことは頼むと勝手な理屈をこねる兄に、ディオールが今一度拳を固めたときだ。
静かな木々のさざめきを裂く軍靴の響き。
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