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【第三章 憎しみと剣戟と】花の向こうで眠れ(6)
「あのひとを助けにきたんだな。ならば安心だ」
何を言ってるんだと叫ぶディオール。
「レティシアの軍とロイ将軍の部隊がぶつかれば必ず戦闘になる。そのどさくさにまぎれて都を落ちのびるのだ。いいな、兄上」
切羽詰まった響きに、初めてカインは違和感を覚えた。
「ちょっと待て、ディオール。おまえは……?」
薄く微笑み、ディオールは小舟を押し出した。
折からの強風にゆらりと大きく揺れ、小さなボートはゆっくりと進みだす。
同時に木立からロイが飛び出してきた。
王の前に立ちふさがる巨体に向けて抜き身の剣を振りかざす。
金属がぶつかる嫌な響きは、ディオールが自らの剣の鞘でロイの剣技を受けた音だ。
ディオールと叫ぶ兄を、弟はもう振り返りはしなかった。
「私だって、命をかけるならアルのためと決めていた。兄上のためにこんなことまでしたくない。幼いころに生き別れ、兄上との思い出だってないんだから」
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