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【第三章 憎しみと剣戟と】花の向こうで眠れ(8)
兄が城から出て街の賑わいの中に姿を隠すまで、もう少しだけ時を稼がなくてはならない。
その後、包囲をかいくぐって撤退。
アルフォンスを探すか、あるいはレティシア軍に合流するか。
「いや、どの面をさげて……」
思考が乱れた隙をつくように、空気が振動した。
ビョウと風が唸る。
──しまった。
ディオールが腕を薙いだのは反射的な動きであったろう。
剣の刃に、柄に、鉄の矢じりが弾かれ何本かの矢が地に落ちる。
瞬間、その手が痙攣した。
胸を穿つ衝撃。
近接戦での不利を悟ったロイ隊は、さらに距離をとって弓矢の攻撃に切り替えてきたのだ。
そうなるとディオールの巨体は狙いやすい的である。
ディオールの表情が凍りついた。
視線だけ下へと動く。
──これまでか。
己の胸に突き立つ矢を認め、彼は小さく息をついた。
とたん、視界が回転する。
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