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【第三章 憎しみと剣戟と】花の向こうで眠れ(16)
「扉が開いているぞ、よく見ろ」
「逃げようとしたな、この兄弟」
突然の怒声とともに檻が激しく揺さぶられる。
悲鳴をあげたアルフォンスの髪をつかんで、商人たちは外へ引きずり出した。
手には鉄の棒。
逆らった商品に罰を与えるものである。
「アルフォンス……っ!」
振り上げられた鉄棒の下にカインは飛びこんだ。
瞬間、背に衝撃と熱。
しばらく時をおいて痛みが走る。
棒で思い切り打たれたのだ。
さらにもう一度、衝撃。
「やめ……やめてっ!」
泣き叫ぶアルフォンスに向けて手を伸ばすも、彼は突然伸びて来た腕にさらわれてしまった。
アルフォンスの悲鳴に駆けつけたのだろう。
高価な衣服をまとった男たちに抱え上げられたのだ。
──あの涙をぬぐってやりたかったのに。
何度も打ち据えられた背はもはや痛みなど感じない。
そこには歪んだ満足感が残るだけ。
アルフォンスに怪我がなくて良かった。
守ることができて良かった。
その後カインは街の外へ打ち捨てられた。
商人たちはさすがにまずいと手当てを施したものの、傷だらけの痩せぎすの少年に買い手がつくはずもない。
要は商人たちはカインを放り出したのだ。
解放というより、厄介物を捨てたという感覚だろう。
カインは街から離れようと走り、やがて力尽きる。
そこを遠征帰りのグロムアス国王に救われたのだ。
その後、国へ連れていかれ軍人として育てられることとなる。
どんなに傷が痛くても、どんなにつらくても耐えられた。
なぜなら、カインの手にはいつも黄金色の希望が握りしめられていたのだから。
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