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【第三章 憎しみと剣戟と】花の向こうで眠れ(18)

 だが、そうはいくまい。  もしも己の死が愛する人を傷つけるなら、その前に離れてしまうよりほかあるまい。 「……っ」  カインはその場に膝をついた。  街の明かりがいくつも重なって見える。  思ったより失血が酷いのだろう。  あるいは先日の襲撃で受けた傷が開いたのかもしれない。  ──早くあの場所へ。  ロイの部下らに見つかって、軍人の横暴さでズタズタに切り刻まれるのはごめんだ。  できればひとり静かに眠るように逝きたい。  旧世紀の遺物である要塞に訪れる人はあまりいない。  だからだろう。  踏み固められていない地面には一面、可憐な花が咲いているのだ。  グロムアス国王に救われこの国に連れてこられてから何度も怖い夢をみた。  夜明けに泣きながらこの場所に駆けてきたものだ。  黄金色に輝く花があのときの少年の髪の色に似ていて、潰れそうになる幼い心を救ってくれた。  彼にもらった黄金の花のペンダントをこの場所で天に透かしと眺めると、それはそれは美しく輝くのだ。  踏みしめた足元から青臭い草の匂いが溢れてきた。  あと数歩で遺跡が視界に入る。  一歩、二歩──しかし、そこでカインの足は止まった。  目の前に広がる丘には、花。揺れている。  しかしそこに待ち焦がれた黄金はない。  月光に冷たく照らされ、それは拒絶するような刃の色をしていた。

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