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【第三章 憎しみと剣戟と】なれのはての恋心(1)

 王を追いつめる足を止めたのは、危機の知らせであった。 「閣下、武装勢力が水路を伝って王宮に侵入したと報告が」  ロイは唇を噛む。  逡巡が表情に表れていた。 「貴様らは直ちに王宮に向かえ。オレもすぐ追う」  カイン王が逃げた丘の頂上はもうすぐだ。  今、追跡の手を緩めるわけにはいかない。  あそこには旧世紀の砦が残っているものの実戦に有効なものではない。  朽ちかけており、隠れる場所すらないのが現状だ。  カインが何故あんな場所へ向かったのか、ロイには今もって謎である。  果たして、丘の上には月光に貫かれるような不安定な姿でカインがいた。  力を失った黒衣の男は朽ちた要塞の外壁にもたれ、ただ座り込んでいるだけだ。  手には一応、剣。  一応というのは彼がロイらの上官だった時代から、腕がたつという理由で地位を保っていたからではないためだ。  たったひとり。  手負いのカインと、腕に覚えのあるロイら数名の将。  剣を交えるのも可哀想なくらい結果は見えている。

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