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【第三章 憎しみと剣戟と】なれのはての恋心(5)

 ロイが張りあげる声には焦りの中にも幾分余裕が感じられた。  そう、兵士らから少し離れた位置にいるロイの手にあるのは負傷した王。  灰色の刃を突き立てられたカインは、要塞の壁を背に力なく座り込んでいた。  黒衣が濡れているのは出血が止まらない事実を示している。  アルフォンスの動きによっては灰色の刃は無慈悲に王を貫くだろう。 「ロイ……」  アルフォンスは唇を噛んだ。  小舟で街へ連れて行ってくれたことを思い出す。  ここにいる男は、少々間が抜けてお人好しなあの時のロイと変わらない。  だが覚悟という名の鎧をまとった彼に、脅しも説得も通じる気配はなかった。  アルフォンスは無言で剣を足元に放り捨てる。  兵士の元へと蹴り飛ばしてやったところで、ロイの肩から力が抜けた。  この男なりの正義感だろうか。  ロイもカインに向けていた剣を引く。 「陛下……いや、簒奪者カイン。実はオレは貴様に期待してたんだ」  小さな呟きは目の前のカインに向けられたものであり、アルフォンスの耳には微かな風の音となって届くにすぎない。 「一年前、貴様が先王を殺して王位を奪ったのは正しいことじゃあない。だが、これで先王の軍拡路線が止まると思った」  上官だったときの貴様は決して好戦的な人物ではなかったからなと続けるロイは、罪を告白するかのように顔を歪めている。

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