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【第三章 憎しみと剣戟と】なれのはての恋心(7)
※ ※ ※
黒髪に縁どられ、額の色はいつもより青白く映った。
だが浅い呼吸の奥には安らいだ息遣いも感じられる。
黒曜石の眼にも光が戻っていた。
「アルフォンス殿下、来てくれた……」
「喋るな」
アルフォンスでいい──小さく告げて、金髪の青年は黒衣の男の傍らに腰を落とした。
「無様だな。死にかけじゃないか」
触れた黒衣が血を吸ってしっとり濡れていることに、あらためて驚きの表情を作ってからアルフォンスは王の服を脱がそうと引っ張る。
「やめ……」
「な、何だ、その反応は。違うぞ? 俺は傷の手当てを」
予想外の抵抗に、アルフォンスは頬を赤らめる。
視線を泳がせた後、手負いの王の抵抗など些末なものとばかりに黒衣を剥いだ。
「………………」
背に胸に。
無数の引き攣れた傷痕が白く浮いている。
唇を噛みしめ、アルフォンスは腹の傷、それから矢が刺さった肩の新しい傷に視線を転じた。
「見ないでくださ……」
力なく腕を垂らし、王は俯く。
「誰も見てない。ここにいるのは俺とお前ふたりだけだ」
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