157 / 180
【第三章 憎しみと剣戟と】なれのはての恋心(8)
肩の傷は大したことはない。
それほど深くはないし、出血も止まっている。
問題は数日前に受けた腹の傷だなと、アルフォンスは自らのシャツの裾を千切った。
解けかけた包帯の下で傷口が赤く膨らみ、血の色をした水分が滲み出ている。
傷が開きかけているのだ。
治りきっていないうえに無茶な動きをした。
幾分、自業自得な側面はあろうがそこには目を瞑る。
「本当は消毒をしたいところだが、仕方ない。今は止血だ」
痛むぞと声をかけ、包帯を巻き直しシャツの布で押さえつける。
呻き声を漏らしつつ、
尚もカインは首を振って抵抗した。
「……あなたに見られたくないんだ。こんな醜い体を」
布の端をきつく結わえながらアルフォンスは何度か口を開きかけ、しかし言葉を失ってしまう。
九年前のあの日。
無知で浅はかだった幼い自分のせいで、この男は大きな傷を負ったのだ。
体も心も今尚癒えない深い傷を。
──醜いものか。
囁いた唇がカインの胸に触れた。
「アルフォンス……?」
戸惑いの声が降る中、薄紅の唇が傷痕に押し当てられる。
唾液が肌を濡らし、小さな音をたてた。
ともだちにシェアしよう!