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【第三章 憎しみと剣戟と】なれのはての恋心(8)

 肩の傷は大したことはない。  それほど深くはないし、出血も止まっている。  問題は数日前に受けた腹の傷だなと、アルフォンスは自らのシャツの裾を千切った。  解けかけた包帯の下で傷口が赤く膨らみ、血の色をした水分が滲み出ている。  傷が開きかけているのだ。  治りきっていないうえに無茶な動きをした。  幾分、自業自得な側面はあろうがそこには目を瞑る。 「本当は消毒をしたいところだが、仕方ない。今は止血だ」  痛むぞと声をかけ、包帯を巻き直しシャツの布で押さえつける。  呻き声を漏らしつつ、  尚もカインは首を振って抵抗した。 「……あなたに見られたくないんだ。こんな醜い体を」  布の端をきつく結わえながらアルフォンスは何度か口を開きかけ、しかし言葉を失ってしまう。  九年前のあの日。  無知で浅はかだった幼い自分のせいで、この男は大きな傷を負ったのだ。  体も心も今尚癒えない深い傷を。  ──醜いものか。  囁いた唇がカインの胸に触れた。 「アルフォンス……?」  戸惑いの声が降る中、薄紅の唇が傷痕に押し当てられる。  唾液が肌を濡らし、小さな音をたてた。

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