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【第三章 憎しみと剣戟と】なれのはての恋心(10)
ポトリポトリと零れる滴が愛しい人の手から血を洗い流していく。
目の前の金髪をカインはかき抱いた。
胸から眼から、溢れてくるのは想い続けた感情の渦か?
「あなたを抱きたい、アルフォンス」
腕の中で恋人はピクリと身を震わせた。
「馬鹿を言うな。お前は瀕死の状態で……」
「ならば、この腕に抱きしめるだけでも」
それなら、もうとっくにしてるくせに──小さな笑い声とともにアルフォンスの腕がカインの背に回された。
傷に触らないよう気遣いながら、彼の胸に顔を埋める。
ゆっくりと髪を撫でる手が心地良い。
「お前の手はあたたかいな。触れられたところすべてが悦んでる」
遠慮がちに上唇をついばまれ、アルフォンスは微笑する。
カインの頬に両方の手のひらを添えると唇を重ねた。深く。
いつのまにか月は隠れ、一面は青白い世界に閉じられる。
やがて、彼方から黄金の光が昇った。
風に乗って足元の花がサラサラと音をたてる。
「アルフォンス、見て」
離れた唇を名残惜しそうに見やってから、アルフォンスはカインの視線を追った。
そして小さく声をあげる。
知らず零れる吐息。
朝の太陽の光を受け、白い花が金色に染まる。
丘は一面の黄金色に輝いていた。
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