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【終章】黄金の祝祭(13)
頬に触れられた手を振り払おうと身を固くし、結局アルフォンスはそのまま全身から力を抜いた。
この手が、今はただ心地好いのだ。
耳たぶを真っ赤に染めて俯いてしまったアルフォンスを見下ろし、図らずも意識させてしまったかとカインのほうが焦った様子。
「そ、その、殴られたところは大丈夫かと……思って」
「えっ? あ、ああ」
勘違いに気付いたのだろう。
反射的に左頬に手をあてて、アルフォンスはとぼけたように視線を泳がせた。
傍目にも分かるくらい左頬が赤く腫れているのは確かである。
それは好きな相手が隣りにいるからというわけではないのだ。
矢で射られたディオールを手当てしたあと、船に乗って逃げたというカインを追った。
慣れない街だ。だが、ピンときた。
カインが大怪我を負っているにも関わらず移動しているなら、あの場所しかない。
どうしても見せたいと言っていた黄金の花咲く丘。
王宮の厩舎に繋がれた馬に飛び乗ると、街外れに見える丘の上の要塞に駆けたのだ。
祭の賑わいのため到着は遅れたが、ロイの手からカインを守ることができた。
ひとまず王宮に戻ろうと手負いのカインを馬に乗せようとしたときだ。
傷を負ったかつての王はそれは頑なに拒んだのだ。
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