174 / 180
【終章】黄金の祝祭(15)
朝陽の到来とともに丘に一陣の風が吹き抜けた。
軽やかな騎馬の足音、鼻孔をくすぐる柑橘系の香り、
長い金髪が風に遊ぶサラサラという音が聞こえてくる。
「遅くなったな、アル」
凛とした声が降り注ぎ、アルフォンスは信じられないという表情で突如現れた馬上の人を見上げた。
「あ、姉上……」
まさかこんな所で再会できるとは。
実戦的な鎖帷子に身を包み、白馬にまたがるのはレティシア王ソフィーその人である。
右手に抜き身の剣を握る凛々しい姿に、呆然としていたアルフォンスがようやく我に返った。
「あ、姉上、なぜこんなところに……しかもお一人で」
ヒラリ。
白馬から飛び降り、弟の前でソフィーは腕を組んだ。
スラリと背が高く、アルフォンスを見下ろす形となる。
「一人ではない。街の外には部隊を潜ませているぞ。目立たぬよう街へは精鋭二十騎を率いて侵入した。今ごろおまえを探して王宮に入っているだろう。アタシはどうにもピンときてな。この丘におまえがいるような気がして単独行動をとったのだ」
おまえが寄越した水路の地図、あれは実に役に立ったぞ──なんて言いながら優雅に馬の鼻先を撫でるレティシア最高権力者の姿に、アルフォンスの肩が震える。
「まさか俺一人を探すために姉上自ら敵地の王都にまできたわけじゃないでしょうね。危険ではないですか。俺が何のために己を犠牲にしてここに来たと。姉上を守りたかったから……」
語尾は宙空に消えた。
ゴッと鈍い音とともにアルフォンスの身体がその場で半回転する。
陽の光に輝く黄金の花の上に勢いよく倒れ込んだ。
ともだちにシェアしよう!