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【終章】黄金の祝祭(16)
「うっ……あっ……」
レティシア国王の拳が、アルフォンスの左頬に炸裂したのだ。
並みの殴打ではあるまい。
音もさることながら《レティシアの黄金の剣》が頬を押さえ地面をのたうち回っているのだ。
そんな弟を見下ろして、レティシア国王ソフィーは告げる。
「おまえが突然消えたのだ。救出軍を繰り出すのは当然だろう。おまえは己を過小評価しすぎる。レティシア王位継承順位一位というだけではないぞ。おまえは我が国になくてはならぬ人物だ」
「あ、姉上……」
姉の言葉か、はたまた痛み故か。
涙目のアルフォンスの傍らにソフィーは膝をついた。
「何よりだ。おまえはアタシにとって血を分けたたった一人の肉親じゃないか。心配する姉の気持ちを察しろ」
「姉上……」
「すべてを抱えようとするな。おまえにとって荷が重いものはアタシが代わりに背負ってやる。いいな?」
コクリと頷くアルフォンスの表情は幼子のそれであった。
翡翠の双眸からポツリと涙がこぼれる。
「おまえは存外、泣き虫だな」
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