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第21話 久遠(4/4)
「ところで、今から罰として……みっつ、条件を申し渡すけれど、ふたりとも、心の準備はできている?」
「も、もちろん」
「異存はございません」
雫と七月が頷くと、久遠は雫を片腕に抱いたまま、言葉を継いだ。
「じゃ、ひとつめ。閨房術に関してだけれど……これからは、三人でする。僕の目の届かないところで、七月が雫に触れることは、禁ずる。当面の間はね。その代わり、僕が許可を出した時は、存分に触れてくれ。ふたつめ。泰衡さんにも、僕の父にも、この件は伏せておく。彼らを巻き込んだら、せっかくの七月の配慮が無駄になってしまうからね。みっつめ。これが一番大事な条件だけれど……再現してくれ」
「再、現……?」
おずおずと雫が尋ねると、久遠はその背中を軽く撫でた。
「きみらが、どうはじまり、どう続き、どう愛し合おうとして我を忘れたのか。何をしてきたのか。今日述べたことの、すべてを僕の前に余さず晒すんだ。全部。……できる?」
要求の三番目に息を呑む雫に、久遠は悪戯めいた声で囁く。
「拒んでもいいよ。でも、この条件を嫌がるのなら、雫との付き合い方を考えざるを得ないな。たとえば、そうだな……結婚したあとは、おいたができないように七月とも引き離して、僕以外は鍵を持たない、邸の離れに閉じ込めておくとか、ね……?」
甘い戯言に胸が疼くのを雫は自覚する。なぜ束縛されるだけなのに、こんな風に感じてしまうのか、わからないまま頬が朱に染まり、久遠の方を見ると、困った顔をされてしまう。
「まんざらでもない反応をするとはね。雫には、そっちの才能があるのかもしれない」
「……久遠さま」
咎める口調で七月に諌められた久遠は、からっと笑った。
「冗談だよ。でも、三番目の約束は、きみらの間に起きたことが、避けられなかった事故だと確信するために必要だ。この先、きみらを信じてゆくにはこの条件が、欠かせない。雫、きみが七月にされて、どう乱れるかを、僕に共有させてくれ」
「わ、かった……」
ぎこちなく頷く雫の頤を持ち上げた久遠は、唇に触れるだけのキスをした。
「きわどいだろ? きみは……恥ずかしくて泣いてしまうかもしれないね?」
久遠の悪戯が、雫を甘く浸潤し、鼓動が打つたびに雫の胸は震えた。ずっと以前から、こうして欲しかったのかもしれない。久遠は、雫の指に交差する形で指を絡め、七月には聞こえない囁きで「可愛いね」と褒める。それだけで、味わったことのない種類の疼きが、鮮やかに身体の芯を駆け抜けた。
「週末に湘南の別宅へいこう。金曜の夜に発って、日曜に戻る予定で。それと、最後にひとつだけ。……閨での手管なんてなくとも、きみはとても魅力的だよ、雫」
何をおこなうか明言を避けた形でされた久遠の提案に、雫も七月も是非もなく、頷いた。
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