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第23話 愛と矜持(*)(1/4)
「っぁ……っ」
胸の突起を柔らかく潰され、雫は小さく悲鳴を上げる。
「ここ、弄られるの好き? 少し腫れてきているけれど」
「んっ、ぁ……っ」
欲しがる身体を制御しようと唇を噛む雫に、久遠は嗜虐的な笑みで応える。
「可愛いね。鈴みたいな声で嫌がるなんて」
「ゃぁ、ち、が……っ」
「違う? なら、もうしない」
久遠は堪えていた感情をすべて込めるような言い方で、突然、雫への愛撫をやめてしまう。再開してはまた止めて問い、答えの如何によらずそれが繰り返されると、雫は涙声になっていった。
「っ、じゃ、なっ……な、ぃ……っ」
「じゃ、痛い……?」
「ん、んんっ……」
首を振って否定する雫を、久遠は意地悪な顔で覗き込んだ。
「きみは何を怖がっているの? それとも、嫌なことをされるのが、好きなのかな?」
混乱する雫に問いを投げかけるたびに律儀に止まる久遠に、雫はあさましく緩んでいるだろう顔を向けるしかない。
「ゃ、し、して……っ、さっ……きみ、たい、に……っ、も……っと、んぁぅ……っ!」
掠れ声での哀願に、やっと満足したかに見えた久遠は、そのまま雫の胸部へ顔を伏せ、指で散々、嬲り続けていた尖りに唇を寄せた。
「ぇ……? ぁ、ゃ……っ!」
「嫌……?」
久遠は、その突起をひと舐めして唾液で濡らすと、顔を上げて問うた。
「っちが……」
かつて七月がした予言どおり、久遠の舌が雫をあやす。驚いたものの、嫌ではない。その甘やかな快感に、雫は揺れながらシーツを握りしめて零した。
「し、ぃ……っ、欲し……っ、続け、て……っ、久遠……っ」
左の尖りを摘ままれながら、右側を柔らかく食まれる。べそをかきながらねだる雫の意志を、久遠は折々に確かめながら、色を濃くした乳首をねぶったり舌先で突ついたりする。だが、快楽を伝えるための舌先は痺れ、雫は意味のない声を絞り出すので精一杯だった。
七月は気配を消し、久遠の隣りで、雫の髪を宥めるように梳いている。
「ぁぅ、ひ、ぁ……っ」
「きみをこうしたいと、ずっと思ってきた。嫌なら、蹴り飛ばしてくれて、かまわない」
舌先で捏ねられ、甘噛みされながら久遠に話されると、刺激が強すぎて、雫は半泣きになってしまう。
「ぁっ、ぁ……それぇ……っ、ひぅ、んっ、んぁっ……喋っ、な……ぁぅ……っ!」
久遠にされるたびに、頭の隅が痺れて溺れそうになる。きつく握った雫の拳に七月の手が重ねられるが、それすら快感に変換されてしまう。
「きれいなだけの花じゃない。甘くて、とびきりおいしい」
薄い胸板の上の朱く凝った小さな果実をねぶられ続け、過ぎる感覚に押し流されまいと身体を跳ねさせると、見かねた七月が、雫の両手首を頭上でひと纏めに括った。雫の手に握られていたリモコンを「もう、必要ありませんね」と涼しい言葉で回収したあとで、宥めるように雫の髪を梳き続ける。
「ひ、んっ……ぅ、ひぁ、ぁっ、っぁっ……っ!」
緊張からか興奮からか、久遠の指先は少し冷えていた。弄ぶように先端を弾かれ、仄かに朱色を増した乳首が、久遠の舌による蹂躙を受けている間、七月は軽々と雫の手首を束縛したまま、かすかな笑みを口の端に浮かべる。まるで、仕事を完遂する間際の満足げな表情だ。その間も、久遠の熱に炙られ続けた雫は、半分勃起して下着の布地を押し上げる先端が、先走りで湿りはじめるのを自覚せざるをえなくなった。
「ぁぁぅ……っ、も、久遠……っ」
果てまい、と奥歯を食いしばるが、快楽を引き出され過ぎて、どうしたらいいのかわからない。七月の空いた方の親指が、舌を噛まないようにとの配慮からか、口内へ挿れられる。声を抑える術も奪われ、雫は濁る視界に映るふたりのアルファに、あさましく痙攣する身体を晒しながら、悲鳴を上げ続けることしかできない。
それをいいことに、久遠は雫に次々と新たな快楽を教え込んでゆく。何も言わぬまま、久遠を手伝い続ける七月から逃れようとするが、どう足掻いても両手首の拘束が解けることはなかった。
「ぅ……ぅ……っ、ぁっ、んんっ……っ」
眦を涙が伝い、これ以上、醜態を晒したくない。一度も触れられていない下着の中は、先走りとオメガの愛液で泥濘みはじめている。これ以上されたら、肌を撫でられただけで達してしまいそうだった。久遠の愛撫も七月の束縛もただ甘いばかりで、手心を加えられているのに、雫だけが淫らなオメガであることを、思い知らされる。
「ゃ、らぁ……くぉ、な……っ、き、ぃぃ……っ、ぅぅ……っ」
高みを希求し情欲に負ける姿を、敬愛するふたりの視界に入れたくない。欲望に掠れる声で部屋の空気を穢しながら、なけなしの自尊心と羞恥心が混濁し、やがてぽきりと折れる音がする。
「も……許、て……っ」
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