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第23話 愛と矜持(*)(4/4)
「ぁっ、ん、ぃ……っぃぃ……っ、くぉ……っ!」
抵抗するつもりで伸ばした腕が、七月の指を掴み、同時に久遠のシャツを引き掴む。視界に入るふたりのアルファへ、すべてを投げ打ち、ただ絶頂をねだることしかできない。
「っ……き、たぃ……っ、から、ぁ……ぁぁ……っ! ぅ、ひく、っ……許、……って、も、無、理……っ! っめ、なさ……っ、ご、め、なさ……ぃぃ……っ!」
久遠から引き絞られた弓のような清涼な気配が強く香ってくる。緩く、強く、次第に大きく腰を回されると、雫も追従しつつ、溢れる快楽に濁流のように飲み込まれてゆく。
「悪い、こと、でも……したの? 雫……っ?」
「ぅ……ぅぅ……っ、ぃ、じめ、な……っで……っ」
「いじめられるの、嬉しい、の……?」
「んぁ、んっ……好き、これ、ぁぅ、こ、れぇ……っ」
「おねだり」
「んぁぅ……っ!」
「上手、に、できる、ね……?」
視線を絡め合いながら、覗き込まれつつ、ぐっ、ぐっ、と強く腰を押し込まれると、膝が開き、とっくに崩落した理性の残骸を押し流すような愉楽に、溢れた大波が荒れ狂い、かぶさってゆく。
「ぁぁっ、だめ、も、ぃっ……ちゃ、くぉ、き……みで、ぃっちゃ……っ! ぁ、っだ、だめ、ふぁ、く、ぁ、ぁっ、ぁ……っ! ぁっ、くぉ、待っ……ぁっ……!」
心を絞るように白状したが、もはや何に反応しているのか、雫自身にもわからなくなっていた。欲しがってしまう淫らさを認められずに泣きながら哀願するが、さらに強く腰を押し込まれると、雫は決壊した。
「ひぁ、ぅ、ぁぁん……っ!」
視線を外すことすら許されず、雫はふるふると首を横に振る。久遠の黒曜石のような眸は熱を帯び、同じ熱を分かち合っている感覚に、肉体的な快楽とは異なる場所から悦びが湧き上がる。
「ぁ、ぁあっ……!」
脚の間の未踏の地。
挿入されたこともなければ、触られたこともない場所が、濡れそぼり、埋められたがっている。布越しに前を擦り合わせるだけでは足りない、オメガのあさましい孔。挿れてくれとねだりはじめる未来を明確に自覚した時、雫は絶頂を覚えた。
「ぁっ……ん! んぁ、んんっ……! も、ぃっ……た、ぃ……った! った、からぁ……っ、も、ひぅ、んぁぅ……っ! とま、止、まっ……――~~っ!」
不随意に痙攣する雫の身体を睥睨した久遠が、雫のうなじを撫でると、視界が白く弾けた。
「ぁ……っ、は……ぁ、っ……ぁ、……っ!」
突然訪れた衝撃に投げ出された雫は、それ以上のことを認識できず、くたりとなった。
雫が落ちてしまったことを確認した久遠は、衣擦れの音とともに身体を引き、ひとつ満足げな深呼吸をした。
「可愛い雫……虜になってしまうよ。こんなに泣いて、いとけなくて、可哀想で。少し触っただけで、ここまで淫らになってしまうなんて……すごく、僕好みだ」
半開きに緩んだ雫の唇を、隙に乗じて久遠が奪う。まだ興奮がわずかに残ったままだったが、それ以上、雫の性感を刺激しようとはしなかった。
「七月……よく躾けてくれたね」
「……いえ」
七月もまた眦を朱く染めていたが、その顔には理性が残っている。挿入こそ伴わなかったが、雫に「擬似」と呼ぶには濃すぎる経験をさせたことに、些か躊躇いもあるようだった。
「あさましいと言われるべきは、本当は僕らの方なんだ。だって……こんないやらしい欲望を、オメガにぶつけてしまえるんだから」
雫の胸の尖りは摩擦により朱く育ち、愛撫の濃さをしっかり残していた。
「ずっと、雫を欲しいと思ってきた。……嘘じゃないよ」
「承知しております……久遠さま」
七月に視線を向けられた久遠は、雫の手首の内側の擦れてしまっている場所に、くちづけを落とすと、言った。
「謝罪も言い訳も不要だ。僕らは……雫を愛している。それが、確認できた」
疲れた声を出した久遠から、七月は頷く様子で視線を外す。
「大好きだ、雫」
呟き、大切そうに頬や額、こめかみにキスを落とす。久遠との接触のたびに、雫は闇の中、投げ出した意識の外側で、小さな爆発が起きるのを感じていた。
(おれも、好き――……)
その声はどちらのアルファにも届かなかったが、夜は、静かに彼らを団結させた。
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