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第30話 ひとりのオメガ・ふたりのアルファ(*)(2/4)
「ぁ……っ」
七月の指が、雫のボタンが外れたシャツを肩から落とすと、胸の尖りを探った。爪で引っかかれ、声を立てると、緊張した下肢からスラックスを取り去られる。久遠は七月が尖らせた乳首を吸い、舌先で悪戯でもするように押しつぶす。卑猥な声を上げまいと奥歯を噛む雫の耳元に、七月が囁く。
「久遠さまに、見られてしまっていますね……?」
「……っ」
「アルファを侍らせ、あなたが欲しがっているものを、久遠さまも私も、知っています」
「ゃぁ……っ」
美しいアルファが前後にふたり、どちらも雫を壊すためにいる。久遠は雫と自分の指を交差させ、唇で雫の右半身を弄びはじめた。七月は靴下と下着だけになってしまった雫の肩に甘噛みを繰り返す。
はだけられたシャツから露わになった肌が空気に触れた途端、湯気が出そうな灼熱を感知する。久遠が雫の肌を慈しむように撫でる。首筋から脇腹、そして下腹部へとなぞられ、肌と布地の境目までくると、濃い染みをつくる伸縮性のある下着の布の上から、首をもたげた先端を柔らかくなぞった。
「んぁ……っ」
途端にピリッとした感覚が駆け抜け、悪戯された箇所にもっと強い刺激が欲しくなる。生まれて初めての感覚に腰が砕けそうになった雫は、とろんと両脚を開いた。
「ぁ……ぁ……っ」
七月の指が尾てい骨を撫でた拍子に、ぞくぞくと鳥肌が立ち、うなじが熱を発するのがわかった。
雫の内心を悟ったかのように、久遠が低く、だがはっきりと言った。
「うなじは噛まない。楽しみは、初夜まで取っておく約束だ」
「はい……久遠さま」
背後の七月が肩甲骨の辺りをなぞりながら、頷く。
「代わりに、どこを虐めてさしあげましょうか? 雫さま」
「っ……だ、め……っ、ぁ、ぁっ……!」
刹那、熟れた果実のような色に変化した胸の飾りを、そっと摘ままれ、腰の奥が痺れたかと思うと、下着の中で熱が弾けた。
「はぁ……っ、ぅ、そ……っ、ぁっ……おれ、ぇ……っ」
吐き出してしまった白濁が、じわりと濃い染みをつくり溢れるのを待っていたかのように、久遠が指でこそげ取る。その指先がきれいな形の久遠の舌の上へ乗り、雫の視界の中で、ぱくりと含まれる。
「ぁっ……」
そんな、はしたない、と久遠を止めるために腕を上げようとするが、指先は、それぞれ久遠と七月の指に絡めたままだ。久遠は雫の手のひらに額を押し付け頭を垂れると、囁いた。
「好きだ、雫」
「っ……ぁっ、ぁ、ご、め……っ」
あの久遠にこんなことをさせている自分が恥ずかしくて、体温が上がる。
「どうして謝るの? これからきみに、たくさん酷いことをするのは、僕と七月の方なのに。好きだから、抑えがきかなくなるかもしれないのに……」
言いながら、久遠はシャツの襟のボタンを鎖骨の下まで外す。首に見覚えのある、黒いレースで編まれた首輪が巻かれているのに雫は目を瞠る。七月が付けているそれを、久遠も同じように首に巻いていた。
「な……っで、それ……ぁ、っ……!」
「きみと、七月と、同じ気持ちでいたいから」
久遠は雫の手のひらを上へ向けると、リモコンを託した。
「あなたに預けます……雫さま」
振り返ると、七月もまた同じレースのチョーカーを首に巻いていた。
「どちらかが暴走したら、迷わずボタンを押すんだ。きみが、守り通すもののために」
「っ……」
噛まれる覚悟をしていた雫は、視界がみるみる濁るのを、堪えられなくなる。
勝手に先走って迷惑をかけている雫に、従順すぎるふたりが、少しぐらい怒ってくれないと立つ瀬がない。なのに久遠も七月も、互いに牽制し合うことで均衡を保とうとし、最後の手段として雫に電撃を託そうとしている。
「泣かないで」
「だ、てっ……ぅ」
「きみを平等に分けるには、この方法が手っ取り早いというだけだよ。でも、求めた以上、ちゃんと責任は取ってもらう。ふたりで、虐めてあげるから、限界がきたら、これを使うんだ。まあ、あんまり可愛いと、何があっても、止めてあげられないかもしれないけれど」
「っ、ん……っ」
できればひとりで耐えるつもりだった。滑稽なほどの弱さに、胸が締め付けられる。
「たくさんしようね? 雫……」
「ん……、んっ……」
リモコンを、雫はお守りのように握った。久遠か七月か、だなんて、そんな選択はできない。優先順位なんか付けられるはずがなかった。優柔不断と言われれば反論できないが、ふたりともが雫には、かけがえのない存在なのだと、袋小路に追い込まれて、やっと気づくことができる。
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