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第37話 どんなきみも(*)(2/2)

「久遠。おれは、きみのものだ。だから、怖がらなくていい。これからは、ちゃんと話そう。おれ、久遠が相手で、良かったよ」 「雫……」 「おれ、久遠が好きだ。ずっと、前から……。言うの、遅くなったけれど……っ」  突然、湯が波打つのもかまわず、強い力で引き寄せられた雫は、久遠の強い指先に戸惑いながらも、そっとその背中をさする。こうして時々、栄養補給のようにされるたび、久遠の気持ちを知ることができて、嫌いじゃなかった。 「あの、えっと……久遠?」 「ごめん……ちょっとこうさせて。情けない顔をしているかもしれないから」  雫が、おずおずと身じろぎするが、首筋がくすぐったくて、甘く痺れる。心が追いつかないぐらいドキドキするのは雫も同じなのに、久遠は雫の腕に少し爪を立てると、目を閉じたまま鼻を啜った。 「おれは、どんな顔の久遠も、見たいよ……?」  身じろぎとともに伝えると、さらに束縛が強くなる。 「きみがそう言ってくれるのを、ずっと待っていた……。ああ、もう、きみのことが好きだ」  不意に首筋に唇を寄せられ、鼻先でなぞられる。肩に、湯船の水とは違う熱い水滴が滴るのを感じた雫は、そっと宥めるように、震えながら、嗚咽を堪える久遠を抱きしめる。 「好きだ、久遠……」  最初は西園寺家の嫡子に対し、粗相のないように頑張らねば、と必死だった。だが、久遠を好きになる理由なんか、すぐに要らなくなった。 「ぁ……、久遠……?」  久遠の唇が震えながら、雫の肌を這う。指を伸ばせば、関節を甘噛みされ、声が出てしまった。願われると、ぜんぶ許してしまえる。久遠は雫を強く抱きしめながら、火照った頬を雫の肩へ押し付けた。 「んっ……久、遠……っ?」  震える頬が、湯よりも熱い。雫は知らぬふりをしたが、気持ちを伝えることだけは、手を緩めずにすると誓う。 「おれは……久遠を、愛している」  本当の久遠も、嘘の久遠も、久遠の一部だ。愛し方を知らなかった幼少期ならいざ知らず、七月に手ほどきを受け、久遠に護られ、雫はもう、ひとりで歩くことができる。  同時に、腿の辺りに当たっている久遠の逞しさに、欲望を掻き立てられ、雫は唇をほどく。 「っきみ、と……いる、と……おかしく、なり、そう、で……っ」 「……うん」 「した、い……」  一瞬で、のぼせてしまいそうになる。久遠は少し意地悪な声で、逸る雫を諭した。 「もうすぐ七月も戻ってくる。あと少し、我慢しようか」  言いながら、愛撫を止めるどころか、雫の胸や、脇腹に指を這わせはじめる久遠は、本当に意地悪だ。 「ぁ……ぁっ、久遠……っ」 「戻ってきたら……七月と一緒にしようか?」 「ぁ……ん、ぅん……っ」  体温が上がり、抑えがきかなくなりそうだ。耳元で囁かれるだけで、処女地を噛んで欲しくて、たまらなく快くなる。 「可愛い雫……そろそろ、いこうか?」  しばらく湯の中でじゃれ合ったあとで、雫がのぼせそうな頃合いを見計らい、久遠はそっと手を握り、引き寄せる。目的地も告げずに湯船から上がらされた雫は、うっとりした表情のまま、背中を向けた久遠へ着いてゆく。肩甲骨に触れると、振り返った久遠が、そっとキスをして、雫の手を握り直してくれる。  ――それがどこでも、今以上に、好きになる。  確信する雫は、久遠の手をぎゅっと握り返した。

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