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第39話 愛咬(*)(2/5)
「な……っで……? っ久遠……っ」
らしからぬ強引さに、雫は泣きながら混乱し、喘いだ。息つく間もなく視界が涙で歪み、絶頂へと乱れながら堕ちてゆく。過ぎる快楽に畏れをなして、根拠のない哀願をはじめるありさまだ。
「ひ……っぅ、ゃぁ、っ……くぉ、ご、めな……ぁ、さ、ぃ……っ」
「悪くないのに謝るのは……きみの数少ない悪いところだ」
優しく諭す久遠は、何かに気を取られた様子で、しばらく中で暴れさせていた指を抜いてしまう。
「ん……帰ってきたみたいだ」
もうあと半瞬で到達できそうだった絶望に、雫は裏切られたように小さな悲鳴を上げた。
「ぁ、も、ゃ……っぁ」
雫のあえかな息に紛れて、絨毯を踏むかすかな足音とともに、七月が扉の影から現れた。
「こちらにおいで――七月」
久遠が目敏く顔を上げ、半分開いた扉越しに誘う。七月を前にしてか、久遠に高められたせいか、物欲しげにひくつく後孔を持て余した雫は、欲情も露わに、久遠の視線の先を振り仰ぐ。
「無粋な真似を……申し訳ありません」
寸止めに近い状態で放られた雫がぽろぽろ涙を零す姿を目にした七月が、ベッドサイドに歩み寄る。中途半端に高められたまま放置されるのは、羞恥よりもつらく、雫は必死に酸素を取り込みながら、一縷の望みとともに七月を呼んだ。
「ん、っは、ぁ……っ、七月……っ」
「無粋だなんて……きみがくるのを待っていたんだ。ふたりで、ちょっとふざけ過ぎてしまったけれど」
間に入っていいものか迷っていたらしき七月に、久遠は腰に絡められた雫の両脚を緩くほどくと、微笑んだ。溺れかけたバツの悪さに身を縮める雫に、七月は視線を絡めると、遠慮がちにベッドサイドへ腰掛ける。
「廊下まで響いておりましたので、内鍵を」
「それは、気を遣わせて悪かった。ありがとう、七月」
久遠と目を合わせた七月は、首尾よくいったらしく、疲労を滲ませながらも明るい顔でネクタイを緩め、ジャケットを脱ぎ捨てた。襟を開くと、まだ多少、痣が残る首元に、巻かれているものが何もない。自由意志を象徴するそれに、雫は期待にじんと身体の芯を熱くする。
七月は急に思い出したように、唇をほどいた。
「雫さまは、美しくなられました」
「……っ」
急な賞賛と、あられもない姿を晒している落差に、羞恥を覚える。唇を噛む雫の頤に指を伸ばしかけた七月が、ふと久遠に願い出た。
「くちづけを……お許しいただけますでしょうか?」
「きみの好きに」
頷く久遠を律儀に待ち、七月は雫の頤をついと上げ、触れるだけのキスをした。何度か啄ばまれるうちに、深くなってゆくと、物欲しげに雫の中がうねりはじめる。物足りなさを感じるあさましさに耐えられず、雫は切なげに身をくねらせ、窮状を訴えた。
「ぁん……っ、ぁむ、ん、んんっ……っ」
「……今を以って、すべての制限を解除する……、七月。雫と、三人で、しよう」
「はい、久遠さま……雫さま」
七月に見下ろされ、朽葉色の汗ばんだ髪を丁寧に梳かれると、雫は恍惚となってしまう。久遠は、本格的に参戦する意志を見せた七月と場所を入れ替え、雫の背後へ回ると、背面座位になる。代わりに七月と対面することになった雫は、くちづけを受けながら、身体の表面を這う熱い手のひらに震える。
「雫さま……お慕いしています……ずっと、以前から……」
「んぁ……っ」
快楽と欲望をぶつけ合うだけの交合ではなく、心からの交わりが、七月が揃うことで、はじまる。薬による発情よりも、今の方が遥かに快い。想いを伝え合うことで、深く結ばれる確信が生まれる。
「んっ……も、ちぃ……っ、久、遠……っ、七、月……っ」
背後から、久遠が雫の首筋の髪をかき分け、露出させたうなじに指を這わせる。処女地をうっとりとした手つきで撫でられるたびに、身体の奥底から歓びが湧いた。久遠は、尾てい骨に当たるほど滾る肉棒を、雫の後孔へ接着し、やがて、ぬぷぷ、と音をさせながらゆっくり挿入させてゆく。
「んぁ……っ、久遠、っ好、き……っ、ぁっ……っ」
甘い声の上げ方は七月に習ったが、今は、それがひとりでに出てしまう。七月とのキスの合間に言葉にすると、久遠は背後から回した両手で、凝ってしまっている雫の乳首をくにくにと摘まみ、転がしはじめる。七月が額やこめかみにくちづけを落としながら、脇腹を両手で掴み、腰骨の辺りまで撫でたあとで、雫の昂りを優しく握り込んだ。
「欲しがって、泣いていらっしゃる……」
「ぁん、っ……七月、それ、ぃ……っぃ」
雫は両膝を開き、久遠を呑み込みながら、与えられる快楽に仰け反った。過ぎた刺激は柔らかく手加減され、ゆっくり高められてゆく。久遠の剛直を食んだ下肢は灼熱のようで、愛液で内腿が濡れ、七月に握られた屹立もまた、涙を流している。
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