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第3話 整理整頓心がけましょう。
自分でもバカだなって思うよ。
仕事ばっかして、出世はしたけれど、リアルな恋愛は遠くに置いてきて。
恋愛はしないんだから、そういう行為だってもう誰ともしてないくせに、SNSでは遊んでそうなフリをするなんて。
もうあんな思いはしたくないから恋愛なんてしないっていう、不器用でカッコ悪くてビビリな自分。
SNSの中で自己満足を与えくれる、はち、っていう自分。
そんなのが入り混じったまま、バランスなんてはちゃめちゃにこんがらがってもう解けなくなってるんだ。
何も解けないまま、こうして進んでる。
「いやあー、本当にお疲れ様でした。本社のお仕事の方は大丈夫でしたか? 着いて早々こっちに? 荷物はこれだけです? 暑かったでしょう? 飛行機と電車で半日で来れるものなんですねぇ。部長さんには先ほどメールで到着しましたとお伝えしました。あれ? 荷物はこれだけなんです?」
その質問、二回してるけど。
そして、どの質問も矢継ぎ早で言われて返答する隙間もないんだけど。
「荷物は? これだけです?」
その質問、三回目。
「……いえ、仕事に必要なものだけで持ってきてます。すみません。本来は昨日来るはずだったんですが、どうしても片付けておかないといけない仕事が残っていて。一日遅れに。他の荷物はそのままホテルの方に」
「なるほどなるほど。いやいや、急な出張、恐縮です」
子会社である「ほったて小屋」の前で品質保証部部長がにっこりと笑って俺のことを待っていてくれた。
本当に、冗談抜きでほったて小屋だ。ザ、町工場。
どうしてうちの社長はこのほったて小屋を買ったのか。
まぁ、破格に安かったからだろうな。うちの会社、こっちのエリアには拠点となるものがないから。破格の値段で買えて、そこを足がかりにこのエリアでも客先や搬出拠点を手に入れられるのなら、大満足の買い物だったんだろ。
「ささ、暑いので、こちらに。いやあー、九月だっていうのに全く、真夏です。暑くて暑くて」
だからこそ、こんな急務で工場の立て直しを図るんだろうな。ここの水準を少しでも早く高くすることで、会社はまた一つでかくなれるんだから。
「うちは下が工場でして。二回が事務所になっているんです。本社の工場はとても広いんでしょうねぇ」
にしても、これは、かなり至難の業だと思うけど?
「もう建物が古いのもあって見た目オンボロでして」
見た目というか全てがオンボロだ。
二階へと案内してくれてる課長が額の汗をタオルで拭う、その足元、階段の滑り止めも、何度も踏みつけられてるからか、寄れて、たわんで、はずれかかっている。
初めて工場に来た感想は、ただただ。
「こちらが事務所になっていて、うちの品質保証部は一番奥になります」
大丈夫か? この町工場、だった。
「いやあー、汚いところなんですが」
本当に大丈夫か? だった。
これは……ちょっと、予想以上だな。
これ、品質だけの問題じゃないだろう。まず工場の整理整頓清掃からってレベルだろう。
頭痛い。
まだ品質保証、課長としか喋ってないけど、もうすでに課題が多くて頭痛い。
女性の方、斉藤さんは今日は学校行事があって、午後早退って言ってたから明日会うとして、もう一人、若い男の、枝島は現場にいるって言ってたな。あとで紹介するからって。
「はぁ……」
朝イチの飛行機でこっちまで来て、電車乗り継いで、最寄駅でレンタカー借りて、はるばる来たけど着いた瞬間から既に疲労困憊だぞ。
どうしたものか。
なんて思いながら、コーヒーで一休みと思ったら、プライベートのスマホにメッセージが届いてた。
『こんにちはー! えー! マジですか? はちさん、こっちに来るなんて、めちゃくちゃ嬉しい! ぜひ、会いたいな!』
朝、駅前で写真上げたからか。
写真は、よくアップする。
もちろん顔は隠してる。鏡を使った自撮りの時なら、その構えたスマホで。スタンプとか、あとはマスクでも。マスクだけで顔を隠すのは、あんまりしないかな。身バレしたら社会的に抹消ものだから。それでも写真をあげるのは。首から下だけでも写真を載せると好評だからで。
少しでも顔のラインが見えるともっと好評で。
それが多少は心地良くて。
会いたいっていうメッセージに、リアクションだけ送った。
SNS上の「はち」は童貞が好み。初めて、を楽しむ。
そういうことにしておけば、今みたいに誘われても「好み」じゃないからって断れるから。
リアルの俺は、あの大学のを一つとカウントするならば、恋愛経験一回の、ただの仕事人間。モテそうな会話もできなければ、誰か上手に誘惑なんてことも全くできそうにない。
『出張お疲れ様です。どこに行くのかと思ったら、めちゃくちゃ行動エリアです! そのうち飲みませんか』
きっとこんなことをリアルで、目の前で言われたら、不恰好すぎて笑えるくらいにどう返事したらいいのかわからないんだろうな。
そんなことを考えながら笑顔のスタンプも送っておいた。
それから今度は仕事用のスマホを取り出し、到着したこと、それから日々の進捗等は夕方打ち込むこと、あと、かなり思っていた以上だったということを、かの部長には「とりあえず」と題して送っておいた。
「はぁ」
三週間、ね。
仕事、しないとな。
そう思って立ち上がり、プライベート用のスマホはズボンのポケットに仕舞い込んだ。
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