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第7話 朝のお掃除、頑張りましょう。
今日は、ソファの試験しないといけないはず。
工程情報で納期近かった気がしたから。それから中堅にベッドの試験を任せて。あとは――。
――ピピピピピ。
「……」
違った。
俺は今、本社じゃなかったっけ。
そう、まだ見慣れないビジネスホテルの真っ白な天井を見上げながら思い出した。
毎朝、今日、自分が何をするのかなんとなくでも予定を頭の中で作りながら、仕事に向かう。実際に試験をすることは稀になってしまったけれど、チームリーダーを育てつつの、教育も兼ねた試験業務に、あっちこっちとのミーティング。今、立て直しのためにとやってきている工場だけが支店じゃない。他にも日本各地にパラパラと製造元になっている会社はあって、そこともオンラインでのミーティングが入っている。全社でのオンラインミーティングもあれば、各拠点との規模を小さくしたミーティングも。
その全てをこなしながらの実務をこなすには、起きた時点から、仕事モードでいないと。
「……ぁ、すごいな。リアクション」
昨日は長距離移動の疲れもあって、早々に寝た。
アラームを止めるついでにSNSを開くと、昨日アップした、顔をスマホのカメラで隠した自撮りに反応のコメントとリアクションが返ってきていた。
やっぱりこっちにいるっていうのが大きいのかもしれない。
会いたいなんてメッセージもいくつかもらってるから。
会ったところで、ちっとも期待外れなんだけど、そう心の中で呟きながら、寝起きの自分の姿を身支度を整えるついでにパシャリと撮って、またアップした。
その瞬間から、ポコポコとリアクションが送られてくる。
寝起きの写真の雰囲気をどう捉えてくれたのか、一人ですか、とか、昨日はたくさん遊んで寝不足? なんてメッセージも。
「はち」は、童貞好きでセックスが上手い、とみんなが思っている。
でも、実質経験人数一人。
『眠い? 昨日、はちさんと遊べた一人ラッキーだな』
恋愛経験でいったら、一人未満だ。
「ふぅ」
カジュアルオフィススタイルに着替えて、作業服を詰め込んだバックパックを肩に引っ掛かけた。
朝食もついてるビジネスホテルにしてもらえて助かった。
食べたらすぐにでも出勤、だな。
レストランは二階にあった。
シティホテルや観光用のホテルとは違って、シンプルで特に装飾もない、レストランというよりも食堂に近いその場所で、おにぎりを一つとセルフサービスになっているおかずをいくつかトレイに乗せた。
本当は行儀の悪いことなんだけど……。
朝食を食べつつ、プライベート用のスマホを眺めてた。
いつも話しかけてくるフォロワーからの挨拶。全く知らなかったけれど、今回、出張してきていることもあってか初めて話しかけてきたフォロワー。それぞれを眺めながら、朝食を済ませて、車で工場まで十五分。
吸収合併したところから、セキュリティは本社と同様になっている。カードキーをかざして開けるタイプ。カードキーをかざして解錠と同時に電子音が鳴り、会社のパソコンには俺の入室記録が残る。タイムカードも兼ねてるという感じ。だから帰りは室内側から「退社」「外出」そのどちらかを選んで、解錠させる。でないと、外周りの営業は外出の度に「退社」してしまう。
このカードキーのおかげで出勤管理は楽になったし、こうして俺みたいにすごく早く出社する人間にとっては、鍵を預かる預らない、なんてことを考えなくていいから、助かるんだ。
プレハブとなんら代わりのない建物に、ハイテクなカードキーのセキュリティーは少し不似合いだけれど、これならその都度でセキュリティはオン状態になるし、最終帰社社員のセキュリティセット忘れ等もない。
だいたい、出社は始業時間の一時間前にしていた。
単純に一日の仕事の中で、メールへの返信をしている時間がないから、この一時間でそれらを全て終えるようにしていた。
「あ……はようございます」
びっくり、した。
出勤、一時間前、だぞ。
「……おはよう、枝島」
「っす」
まだ誰も来ていないと思っていた。
一番、だと思ってた。
一番に出社してると思ってた。
けれど、先着がいたなんて。
「いつもこんなに早く?」
「っす」
早速デスクについて、パソコンを開いた。一応、社内以外でのメールの開封等は禁止になっている。情報漏洩への対応のために。
だから、朝出勤して一番にするのがメールのチェック。特に今は自分の部下たちと対面でコミュニケーションが取れるわけじゃないから。まだ見ててやらないといけない新人も多数いるわけで。
ほら、やっぱり、保証書関係に不備が。
営業からの指摘メールに、品質保証部のリーダーたちが対応をしている。
「……今から掃除?」
「ぁ、そうっす。下の、工場の試験機」
俺はデスクでメール文と睨めっこのつもりだったけど。
「雑巾、どこ?」
「ぁ……あっち、に」
誰も掃除してないと思った。
でも、一人じゃ、さすがに掃除しきれないだろ。二年目、よく根を上げずにやっていると思う。
「じゃあ、メール打ち終わったら手伝うよ」
仏頂面が基本、な枝島だけれど。
「あ……りがとう、ございます」
けれど、その少し近寄り難くも感じる表情していたとしても、食い下がるように話しかけ続けると見ることのできる、「特別」がある。
特別感、かな。
それを感じられる笑顔を見つめながら、俺はメールを打つ手を早めた。
「どういたしまして」
掃除。
一緒にしようと、メールの返信を大急ぎで終えた。
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