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第22話 寡黙で饒舌
部屋はシンプルなワンルーム。
キッチンがちゃんとあることに驚いた。
しかもちゃんと使ってる。
「そこら辺に適当に座ってください。飲み物用意するんで」
「あ、あぁ」
トイレと風呂は別。
ベッドに、テーブル。
驚いたのは、テレビがないこと。若者らしくテレビじゃなくてパソコンだけがある部屋。うちの、本社の新人もそうしてるって話してたっけ。テレビ番組ってほとんど見ないからテレビがいらないって。でかいし、高いし。テレビしか見られないしって。動画配信とかばっかり見てるから、あんまりいらなくて買ってないって話してた。
「酒、すよね」
「あ、いや……」
枝島は冷蔵庫を開けたまま、考えごとをしている。
その背中がでかいなぁと眺めてる。
面積とかじゃない。
骨っぽくて、しがみつこうとするとゴツゴツしてて、掴めるところがないから爪立ててしまった。
「自炊するのか?」
「あ、まぁ……適当に」
「へぇ、すごいな」
「しないんすか?」
枝島が出してくれたのは日本茶だった。ペットボトルの。
昼食の時にもこれ、飲んでたな。
「あんまりしないかな。仕事で帰り遅いし」
「課長っすもんね」
「まぁな」
そう、課長と部下、なんだよな。たまに思い出して、不思議な感じがする。部下なのに……って。
「なんか作りますか?」
「あ、いや、腹はそんなに」
部下の部屋、に来てしまった。
「飯、適当に作りますよ」
「大丈夫」
「なんか、欲しいものあったら言ってください。コンビニ近くにあるんで、買ってきます」
「いや、特には」
「じゃないと、手出したくなるから」
「……」
部下の部屋に招かれて、仕事の相談をされるのでもなく、飯をご馳走になるわけでもなく、ただ。
「手、出したくて仕方ないんで」
「っ」
ただ、抱かれに来た、なんて。
「ど、ぞ……ン」
そのために、来た、なんて。
「はち、さん」
「?」
「シャワーとか浴びました?」
「!」
「これ、はっ、仕事で汗かいたからで」
気がつかれて、頬が熱くなったせいで、声が喉奥でつっかえた。
今日は一日中会議室にこもってた。汗なんてかくわけがない。もう少し見抜かれない言い訳を思いつけないものなのかと思うけれど。
「出る前に汗だけ流した。けどもう一回シャワーを」
「無理、ヤダ」
「っ」
枝島のベッドに二人分の重みがのしかかる。
「待っ」
「待てない」
「……あっ」
首筋に吐息が触れると熱くてクラクラした。
クラクラして。
「ン」
寡黙なくせに、枝島の唇は激しくて、舌先が絡まり合う濃厚なキスをする。
「ン、ンンっ……ン、く」
キスだけで舌が溶けそうなくらい。
長く何度も角度を変えて、続けられるキスに息をする隙間を探しながら、仰向けに寝転がった枝島のベッドの上、手を伸ばして辿々しく、ベルトを外した。
「っ、は、ぁ……ン」
ベルト外して、硬い布のせいでボタンが上手く外れなくて、それを。
「ン、ん」
枝島に手伝ってもらい、下着の中へ手を。
ガチガチだ。
「っ、すげ……手、気持ちい」
も、こんなに。
「一緒に、したい」
「っ」
普段から低い声は耳元で内緒話のように囁くと、掠れて、腰にビリビリとくる。その声一つで何か、胸の内がほろりと崩れて熱に溶けるような、そんな声に絆されながら。
「あっ!」
枝島の手があっという間に下着の中へと侵入してきた。その長い指に握られると、勝手に腰が浮き上がるくらいに気持ちいい。
くちゅ。
親指に先端の小さな口を撫でられただけで、こんな濡れた音がするくらいに、この手が気持ちいい。
「あ、あ、あ」
「握って」
「あ、あぁっ……ぁ」
「はっ、それ、すげ……イイ」
両手で二人のを握って、上下に動かすとたまらない心地がした。
「あ、ン」
「やば」
枝島が起き上がって、俺の脚を開くと、そのまま、そこを重さねて擦り合う。
「あ、あ」
「っ」
気持ちいい。
脚を開いて、ガチガチになってる枝島のに裏側を擦り付けながら、ここ、くびれのとこ。
「あぁっ……あ、あ、あ」
ここを擦るの、たまらない。
「はち、さん」
枝島の、こんなに、硬く。
「すげ、手、気持ちいい」
「あ、あ、あ」
「たまんない……」
まるでセックスしてるみたいに身体を重ねる。枝島が上から覆い被さって、そのまま深く、濃厚で激しいキスを交わしながら。
「ン、ん……ンンっ」
両手で握ったそれを無我夢中で扱いた。
「っ」
「あ、イクっ、も、イクっ」
「っ、はっ……」
耳元で息の乱れた枝島の声が低く。
「はちさん……」
「あ、あぁぁぁぁっ」
名前を呼んだだけで、達した。
手の中でビュクリって弾けて、濡れて。
「……ぁ」
何……これ、気持ち、いい。
「はちさん」
「あっ……待」
「待たない」
「あ、今、イッた、あぁっ」
どうしよう。
戸惑う。
部下の部屋に招かれて、抱かれることも。
普段口下手でもう少し話せよって思うくらいなのに。ぽつりぽつりと話す言葉がたまらなくさせるんだ。声だけでゾクゾクさせられる。
「あっ……」
「やっぱ、無理、待てない」
「あぁ」
「ここ、ほぐして来てる」
「あ、ああっ指っ」
「おあずけとか、無理っす」
その部下に抱かれたいと思って、シャワーも浴びて、セックスの準備をしてきてる、自分の溺れ方に一番、戸惑うから。
あまり溺れないようにとしがみついて、ほら、また、さっき見つめていたあの背中に爪を立ててしまった。
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