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第29話 夜景の欠片
一度目はラブホテルだった。
半分ヤケクソで、もう半分は無我夢中だった。
二度目は、枝島の部屋で。
戸惑いがあって。
三度目はデートの後で。
したいと思った。
したいって望んでる自分がいた。
「わぁ、見てみろ。人が……めちゃくちゃすぐそこにいる」
そうからかって笑うと、枝島が不服そうに口を曲げて、俺たちの吐息に窓ガラスがほわりと小さく曇った。
その窓ガラスの外、数メートル下を人が行き来している。足元って呼ぶには、窓を開けることができるなら、会話も聞こえてきそうな近い距離。人が「粒」には見えないし、なんならひとりひとり表情さえみることができてしまう。
枝島はきっと「眼下には煌めく夜景が広がる」部屋を想像していたのかもしれないけれど、きっとそんな部屋は早めに埋まってしまうんだろう。
「すげぇ夜景だと思ったんすけど……」
「いや、むしろここでもすごいだろ。本格的で驚いた」
「……なんでっすか」
なんでって。
だって、水族館行って海辺散歩して、近くのそれなりのホテルでビュッフェ食べて、夜景も見える部屋まで取ってるなんて。
こんなフルコースみたいなデートを用意してるなんてさ。
「他、思いつかなかった。けど、コース料理にすればよかった。デートで食い放題って微妙っすね」
「……」
「また、もういっかい、」
嬉しくてたまらなかった、楽しかった、と言ったら、枝島はどんな顔をするのだろうか。
そう、思いながら、そっとキスをした。
「治史さん……」
枝島に名前を呼ばれると戸惑いと一緒に嬉しさが混ざると打ち明けたら、どんな表情になるんだろう。
「微妙じゃないよ。ビュッフェ、あんまり食べなかったのは」
「……」
「すると思ったから」
セックス。
そう、小さな声で呟いた。
キスできるほど近くで。少しでも首を傾げたら、唇が触れ合える距離で。そう呟いて、想像する。
どんな顔をするんだろう。
もしも――。
「……枝島」
もしも、早く抱かれたかったと言ったら。
「口、でする」
耳元で囁いて、その股間を撫でた。もうちょっとだけ硬くなってきてくれたそれをあやすように撫でると、すぐそこで枝島が息を詰めてくれる。
ゴクリと喉を鳴らしてくれる。
そんな枝島の足元に跪いて。
「あの、けど、まだ、シャワー」
「いいよ。まだ、準備もしないと、だろ? これ、待てなさそうだから」
言いながらベルトを外した。さっきよりももっと硬くなっていて、こんななのにシャワーを浴びて、孔をほぐして、なんて待たせるのは少し大変そうだったから。
でも、一番は、
「……ぁ、む」
咥えたかった、から。
下着を引っ張り下げた途端に飛び出たそれにキスをした。
「ン」
もしも、ただこれだけで、咥えただけで、腹の下のところ、身体の奥のところがズクズク痛んで熱くなるって言ったら。
「っ、治史っ、さん」
「ン、ん」
どんな顔をしてくれるんだろう。
だから唇で扱くように咥えながら見上げたら、夢中で俺を見つめる枝島と視線が絡まり合って、舌先が痺れるくらい、口の中が気持ち良くなった。
俺たちも、今きっと、眼下に広がる夜景のひと欠片なんだろう。
明かりの灯った窓際で六つ年下の同性の前に跪きながらそんなことを考えた。
「……んむ」
今、なんでもしたい気分だ。
たっぷりしゃぶりついて、枝島に蕩けるくらい気持ちよくなって欲しい。
「ん、ンく……っ」
「っ、治史、さん」
立派。
褒めながら、その先端にキスをする。
顎が疲れてきた。
一旦、口から離して、鈴口のところでカウパーをクチュクチュと親指でもてあそぶ。
「っ」
「フェラされるのも、初めて、だよな」
コクンと頷いた枝島が、仁王立ちのまま、フーフーって、獣じみた呼吸を乱しながら自分のを咥える俺を見つめてる。その射抜くような強い視線が悦かった。
見つめられてるだけで犯されてるみたいで。
興奮する。
その視線に晒されながら、この、太いのを咥えてると腹の奥がズンって、疼く。
これが早く欲しいって、熱が溜まっていく。前にも、後ろにも。
「ん」
焦れてくる。跪いたまま、自分でベルトを外して、自分のそれを撫でれば、クチュリと甘い音がした。
「!」
興奮、した?
枝島のが、俺を見つめながら、もっと口の中でデカくしてくれる。俺が、自分の指で枝島からは見えないところを撫でてるのを見ながら、太さが増した。
「ん、ふっ」
解していくことに、興奮してる?
そうだよ。
今、自分の指を挿れて、孔をほぐしてる。この太いのを。
「ん、ん、こんな、の、簡単に挿らない」
ちゃんとほぐさないと、そう口で咥えたまま話すと、それにも興奮してくれた枝島が頬の内側に先端を擦り付けた。
あとで出し入れされて気持ち良くなれるように準備してる。
それを見せびらかすように一度指を抜いて、その手で一度枝島のを扱いた。口で咥えていたそれをキュッと手で握りながら、太いところにキスをして。
「だから、挿るようにちゃんと慣らしてほぐさないと」
言いながら、一本だった指を二本に増やして。
「んんっ」
パクリと咥えながら、もう一度。
「ん、ンンンンっ」
今度は二本指を挿入しながら、しゃぶりつく。
「んっ、ん……ク」
ほら、また、ビクビクと気持ち良さそうに口の中で暴れてる。
「ひもひいい?」
「っ、ク」
咥えたまま話しかけると、舌で裏筋を擦っていた枝島のが、ビクンと口の中で跳ねる。
舐めて。
「ん」
竿にキスして。
「あ、む」
深く咥える。
「ん、ンンっ」
しゃぶりつかれるのが好きなのか、音を立てて口いっぱいに頬張る度に頬の内側に先端を擦り付けてくる。
それをできるだけ舌先で可愛がりながら、枝島からは見えないところでクチュクチュとかき混ぜられる音がすぐそこ、すぐ下ではまだ人が行き交って賑わいているシティホテルの一室に響いてる。
「はる、ちかっさんっ」
初めての快楽に夢中なのが楽しい。もっと。
「ん、枝島の、ホント、デカい」
もっと、夢中なところが見たい。
「今、何本らとおもふ?」
「っ」
「ここに……」
あの工場の片隅で黙々と作業していた表情が欲情した男の顔になるのが見たい。
「三本……」
一度抜いて、枝島にも見えるところでその三本の指を広げて見せつけてから
「っんんんっ」
もう一度、孔をそれでほぐしていく。
「ん、ん、これ、ガチガチ」
今、想像してる? 俺が枝島から見えないところで何してるのか。今見せたあの三本の指がどこに入って、どんなふうにこの水音を立ててるか。
「っ」
想像した?
「んく……イッてもいいよ。口の中で」
もっと枝島の剥き出しの表情が見たい。
「っん……らひて……っ!」
丸くて太い先端を舌先に乗せたまま、裏筋を舌でレロって舐めてから、口をいっぱいに開いた。
ほら、この舌で舐めてた。
この口でしゃぶってた。
そう見せてから、枝島のを頬の内側で、ぱくり、ともう一度、しゃぶろうとした瞬間――。
「っ!」
ビュクリと弾けて、頬と唇、それから鼻先に飛んだ。
「っ、はぁっ」
「ん……すご……量」
「っ」
唇についたのを舌で舐めて。
「っ、治史、さんっ」
「あと、濃い……にが」
びっくりして、でも、それ以上に興奮した顔。
それを眺めながら、鼻先に飛んだ白を指で掬って。
「三本でもまだ、かも……これも……使わないと」
言いながら、孔に白を塗った。
「じゃないと……」
もっと。
「これ」
見たい。
「入らない」
枝島が無我夢中で熱情に駆られた表情が。
「っ、治史さん」
寡黙な口が必死な声で俺を「治史」って呼ぶのが。
見たくて、たまらない。
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