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第30話 淫らな上司は好きですか?
「はぁ? 無理なんすけど」
色々言いたいことあるんだが。
「絶対に入る」
「入らない」
「絶対に入る」
「入るな」
「ッチ」
まず、俺はお前の上司でもあるからな。
年上だし。例えば、平社員同士で、入社年度が先だ、後だ、の類の先輩後輩じゃなく、役職的に平社員と課長、だからな。今、もしも、うちの本社でお前と同じ歳の新人がそれ、その言い方を耳したら、その場で青ざめて失神するからな。
言わないけど。
ここは職場じゃないし。
俺たちは、まぁ、今ここでは上司と部下の関係じゃないし。
今の俺たちは、その、なんだろうな。
俺は、お前のことを、その、なんていうか――。
「なんで入っちゃダメなんすか」
「!」
心臓、飛び跳ねた。
「治史さん」
「っ」
入る、入らないって、押し問答してた。
風呂に一緒に入りたいっていう枝島と、一緒に入らないって言い張る俺とで。
「なんで?」
「っ」
だって。
詰め寄られて、それでも頑なに断り続けてた。
「い、いいからっ、すぐに準備したらそっち行くって」
「…………っす」
だって、それじゃないと、今日は身が持たない気がしたから。
ようやく素直に退散してくれた枝島を見送りながら、そっと、聞かれないようにしつつ溜め息を一つこぼす。
「すぐに行くから」
そう言って、持参したローションを手に取った。
「……んん」
今日、感度がおかしいんだ。
口の中すら性感帯かと思った。
咥えてるだけでイキそうだったなんて、なったこと、ない。こんなの、知らない。だから、戸惑うだろ。久しぶりにしたセックスが、自分が知ってるものと全然違うんだ。
「処女……じゃあるまいし……っ」
小さな呟きをシャワーのお湯と一緒に足元に流しながら、たっぷりとローションを纏わせた指で身体の奥を柔らかくしていく。さっき、咥えてしゃぶった枝島のを思い出しながら。
「っ、あっ」
後で、あれが自分のここを何度も、貫くんだって思いながら。
「んん、ン」
爆発、しそう。
「ぁっ……ン」
身体の奥がぎゅっと狭くなってる。
恥ずかしくてたまらなかった。これは、違うから。久しぶりの刺激に狼狽えて戸惑ってるんじゃなくて、中が切なくて、締め付けてるから。
「ぁ、あっ」
枝島の、欲しい。
「ン」
さっき、咥えたので、ここを貫かれたい。
「ぁっ」
バスルームのタイルにしがみつきながら響く自分の声が蕩けきってた。こんな声、知らない。あいつとする時は壁一枚隔てた向こうにいる奴らのことが気になって、声なんて出せなかった。いつも口元を覆って、堪えてた。
こんな声あげるんだ。
こんな甘ったるい声で喘ぐんだ。
こんな媚びた声でねだるんだ。
でも、別に我慢しないくていいシチュエーションだから、感じてるってことじゃない。もう、これじゃ準備に、なってない。ただ、枝島のことを想像しながら欲情を自分の中で煽ってるだけだ。
これじゃ、こんなのじゃ、まるで俺は枝島のことが――。
「ん、あぁぁっ」
興奮で頭の回路、焼き切れそうだ。
「ん……ぁ」
指を抜いて、熱がこもって重くダルくなった身体の奥に、キュッと喉奥が締め付けられるように、息を乱して、バスルームを出た。
「……」
出ると、部屋の灯りは一段、トーンダウンをしていた。そのせいか、ソファ脇にあるサイドテーブルのところの照明のオレンジ色をした灯りがやけに眩しく感じられる。その灯りに手元を照らされてる枝島と、シャワールームから出てきたばかりの俺と、バチっと音がしそうなほど目が合った。
窓際のソファの背もたれに腰を下ろして窓の外を眺めて時間をやり過ごしてた。
「……ぁ」
俺は、興奮が体内を走り回っていて、ふわりと感覚が鈍いような敏感なような指先でバスローブの襟をぎゅっと握ってる。とりあえず羽織って、腰の紐は適当に結んだまま、いつの間にか濡れてしまった髪もそのまま。
「準備、終わったんすか?」
「ん、あ……ぁ」
「じゃあ、俺、シャワーすぐに浴びてくるんで」
ソファにちゃんと座らずいた枝島が腰をあげた。
「ぃ……ぃ」
その枝島の腕に掴まった。
掴まれた枝島は目を丸くして、その濡れた手で捕まえられた腕が湯に濡れていくのをじっと見つめて。
「……このまま」
そう囁いた俺の口元を見つめて、ゆっくり目を閉じる。
「……ン」
唇が触れると、そのまま差し込まれた舌にしゃぶりついた。
「ン、ん」
この舌だけでイってしまいそうなキスに蕩けて。
「ん、あっ」
ソファの背もたれにもう一度座り直した枝島の脚の間に入り込むと、自分からも舌を差し出して、濃厚でやらしいキスをねだった。
「治史さん」
「ん……ぁ」
「俺、シャワー浴びてないっすよ。汗、けっこうかいたし、それに」
「い……から、あぁっン」
その手を取って、自分の胸に押し付ける。
「あ、あぁっ」
その手が欲しいことをしてくれた。
「あぁっ!」
摘んで、突かれて、カリカリって引っ掻かれて、それだけでおかしくなりそうなくらいに気持ちがいい。指に乳首を引っ張られて、抓られて、押し潰すように転がされながら、ビクビクって勝手に身体が跳ねるくらい、たまらないから、その枝島の太い首にキスをした。
「いい、よ」
それからその脚の間を移動して、窓際に手をついて。
「早く、それ、ここに」
自分から身体の奥まで捻じ込まれたいって、片手で広げながら。
「挿れて」
挿入して欲しいと、カウパーが滴ってしまいそうな快感に震えた。
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